| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-362 (Poster presentation)
世界中で湿地は減少している。そして現在残っている湿地でも、周辺の土地利用からの人為的影響が問題となっていて、その1つに周辺農地からの土砂堆積が挙げられる。長野県の菅平湿原は、北海道と菅平にしか生息しない氷期遺存種であるクロミサンザシなど多数の希少生物が生息している。しかし周辺農地から農土が流入し、湿原本来の泥炭層の上に農土が堆積している。1987年には河道直線化と河床掘り下げ工事が行われ、水位低下と乾燥化も進んでいる。これまで我々は、1969~2019年の間に急速な森林化と湿生植物が減少し、乾生植物が増加する植物種組成の大幅な入れ替わりが起きたことを明らかとしている。
菅平湿原で起きている生態系変動に対する土砂堆積の影響を明らかにするため、2020年4~5月に土壌改変を行い、表層農土の除去、除去した表層農土の盛り土、表層農土と下層泥炭の入れ替え、旧河道跡、対照区の5つの比較対照実験区を、それぞれ1×1mで計84区設け、出現する維管束植物種を6~9月に追跡した。9月には各区内0.1×1mの小区画で刈り取りを行い、各種の乾燥重量を測定した。
調査の結果、6~9月にかけて58種が記録されたが、その中に過去に生息していたが現在は生息が確認できていない種は含まれていなかった。また処理区ごとに種組成は異なり(p < 0.01、PERMANOVA)、攪乱強度が効いていた(p < 0.01、envifit)。また構成種にも変化があり、土壌改変を行った処理区では湿原優占種であるカサスゲやミゾソバの現存量が減少した(p < 0.01、一般化線形モデル、尤度比検定)。このような結果となった要因として、土壌改変の攪乱の影響が大きいことが挙げられる。堆積土砂を取り除き、泥炭層を露出させる操作は、操作直後では環境の復元効果よりも攪乱による影響が大きいようである。時間経過に伴い攪乱の影響が小さくなると考えられるため、今後も継続して追跡調査を行い、土砂堆積による影響を評価していきたい。