| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-364 (Poster presentation)
フウロソウ科のツクシフウロGeranium soboliferum Kom. var. kiusianum (Koidz.) H.Hara.は多年生草本で、国内最大の草原が発達する阿蘇・久住にのみ生育し、国および熊本・大分県の希少種に指定されている。本種が生育する半自然草原は近年の畜産業の衰退により、草地利用形態の変化や管理放棄による植物遷移により急速に減少している。本研究ではツクシフウロの保全を進めるため、生育特性および生育環境などの基礎的な生態を明らかにすることを目的とした。
ツクシフウロの季節消長は4月に出芽、5月に根出葉展葉、6月に花茎抽苔の栄養生長、7月に花芽形成、8月に開花、9月下旬に結実の生殖生長が確認され、10月に地上部は萎凋した。根茎は一次根茎を有し、継続して2年間連続開花した個体の特徴から多回繁殖型多年草であることを確認した。ツクシフウロの生育は土壌水分が29から63%で、谷部のヨシが優占する中間湿原に集中していた。土壌水分が異なる立地に生育するツクシフウロの生育動態を比較したところ土壌水分が最も低いススキが優占する環境では、ススキの成長と共に6月以降の葉面積指数が高くなり、ツクシフウロは側枝が少なく、または分枝せず、節間長が長く、花数が減少した。開花前に萎凋する個体も確認された。
阿蘇外輪山では丘陵部上部の放牧地が改良牧草地へ、近年ではこれらの草地の畑作地への転換が各地で進められている。これらの生態系の生物相は脆弱であり、牧草地や耕作地へ施肥される窒素肥料および土壌が谷部へ流入し、湿地の富栄養化と乾燥化に伴い、斜面部ではススキ、谷部ではヨシなどの高茎草本の生育が促進され、特にススキの株の肥大化、ヨシの生育密度・草丈が高くなり、中・下茎草本の生育が抑制されている。このような環境変化はツクシフウロの生育地の消失につながる危険性があり、今後は湿地の植生動態に注視するとともに、阿蘇草原の将来を見据えた農用地の利用と草原管理を進め、国・県・市による適切な政策が必要である。