| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-366  (Poster presentation)

草原の時間的連続性が地表徘徊性甲虫群集に与える影響
The effects of temporal continuity of grasslands on ground-dwelling beetle communities

*井上太貴(筑波大学), 矢井田友暉(神戸大学), 小粥隆弘(浜松科学館), 伊藤昇(大阪市立自然史博物館), 丑丸敦(神戸大学), 田中健太(筑波大学)
*Taiki INOUE(University of Tsukuba), Yuki A. YAIDA(Kobe University), Takahiro OGAI(Hamamatsu Science Mus.), Noboru ITO(Osaka Mus. of Natural History), Atushi USHIMARU(Kobe University), Tanaka KENTA(University of Tsukuba)

半自然草原は生物多様性が高い陸上生態系であるが、国内のみならず世界各地で減少しているため、優先して保全すべき多様性の高い草原の特定が急務である。近年、過去の植生履歴が現在の生物群集に影響する報告が相次ぎ、数百年以上維持されてきた歴史の古い草原と、20世紀以降、森林を切り開いて作られた新しい草原との間で、植物の多様性や群集組成が異なること、蝶・蛾で広い古い草原に特有の動物群集があることが我々の研究で明らかになっている。本研究では、中部山岳地域の菅平・白馬・霧ヶ峰の3地域で、植生履歴が地表徘徊性のコウチュウ目昆虫群集に与える影響を調べた。
現在まで110~数千年以上続いている「古草原」、44~73年前の森林伐採由来の「新草原」 、それに「森林」を加えた3つの植生タイプを、各地域につき5~8地点調査した(計58地点)。2017年に菅平・白馬、2018年に霧ヶ峰で、ピットフォールトラップでコウチュウ目昆虫を捕獲した。なお誘引物資の影響を避けるため、保存用プロピレングリコールのみを使用した。
計4327個体が捕獲され、現在までに科レベルでの同定が終了した。捕獲された個体のうちオサムシ科(1363個体)とハネカクシ科(1221個体)が半分以上を占めた。植生タイプ間で総個体数の違いは検出されなかったが、林床性のゴミムシダマシ科は古草原で個体数が多かった(GLM、尤度比検定 p < 0.05)。霧ヶ峰では科組成について、新・古草原間で異なる有意傾向が見られた(PERMANOVA, p = 0.058)。また、調査地点から半径300または400 m以内の古草原面積によって科組成が説明されることが全地域でも明らかとなった(envfit 菅平 p < 0.05、白馬 p < 0.05、霧ヶ峰 p < 0.05)菅平では現在の草原面積との相関も調べたが、科組成との間に関係は見られなかった。
チョウ鱗翅目についての先行研究と本研究から、広い古草原に特有の動物群集があることが、複数地域の様々な分類群に共通して言えることが分かった。


日本生態学会