| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-371 (Poster presentation)
山地生態系は、標高差という要因によって、豊かな生物多様性を保持している。しかし近年では、オーバーユースなど人為的影響による多様性の損失が懸念されている。筑波山においても、豊かな植物相が見られる一方で、人の利用圧が高く、一部の自然林は人工針葉樹林に転換されている。筑波山の生物多様性を保全していくためには、こうした特徴が野生生物の生息に与える影響を明らかにすることが重要である。筑波山ではこれまで様々な研究が行われてきたが、中・大型哺乳類については調査事例が乏しく、保全や管理に利用できる情報が限られている。そこで本研究では、2020年6月より約6ヶ月間、筑波山に設定した24地点においてカメラトラップ調査を行い、中・大型哺乳類の生息状況を調査した。一地点あたりのカメラ稼働日数は約97日で、 撮影頻度が高かった順に、イノシシ、ニホンアナグマ、イヌ、ハクビシン、ネコ、タヌキ、ホンドテン、ニホンイタチ、ニホンノウサギの9種の中・大型哺乳類が記録された。撮影頻度の高かったイノシシ、ニホンアナグマ、ハクビシンについて、標高、植生タイプ、人の撮影頻度などとの関係を分析したところ、種ごとに異なるパターンが検出された。イノシシは、低標高域において、7月から9月にかけて撮影頻度が増加した。また、広葉樹林よりも人工針葉樹林において撮影頻度が低く、さらに人が連れた犬の撮影頻度に対して負の応答を示した。ニホンアナグマは、低標高域において、7月から10月にかけて撮影頻度が減少した。また、人工針葉樹林や夜間の人の撮影頻度が高い場所で、撮影頻度が低い傾向にあった。一方、外来種のハクビシンは、標高、植生タイプ、人の利用に関わるいずれの要因についても、撮影頻度との間に明瞭な関係が検出されなかった。以上の結果から、筑波山では人工針葉樹林の分布や人の利用圧などが、在来の中・大型哺乳類の生息範囲を制限しているものと推測された。