| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-372 (Poster presentation)
コウノトリの野生復帰地である兵庫県豊岡市では、休耕田を活用した「水田ビオトープ事業」を展開している。水田ビオトープ(以下、ビオトープ)は市内各所に広く分布しているが、全体としての生態的機能は明らかになっていない。また、現状の生物多様性を保全するうえで特に重要なビオトープを事前に把握し、優先的に保全していくことが求められる。本研究では、市内32箇所のビオトープにおける水生動物の群集構造を把握、類型化し、様々な環境要因から生息規定要因の解明を行った。また、相補性解析により保全優先箇所を選定した。
2019年6月、8月、10月、2020年2月、4月の計5回調査を実施した。1箇所につき捕獲努力量を3人×5分に統一し、タモ網(目合1mm)を用いて採集した。水生動物は分類群ごとの個体数を記録し、水生昆虫は成虫と幼虫をそれぞれ1種類としてカウントした。
調査の結果、111分類群45,642個体の水生動物が確認された。全調査データの在・不在によるTWINSPAN分析の結果、山間部と平野部で群集構造が異なった。また、近接しているビオトープでも管理形態の違いにより群集構造が異なることが示唆された。計5回の調査を実施したビオトープの分類群数、多様度指数、平均個体数について、物理環境と土地利用要因との関係性を一般化線形モデルで解析した。分類群数は人工物と畑が負、多様度指数は人工物と近接ビオトープが負、鬱閉率が正に影響した。水域の存在やリター供給が、分類群数や多様度指数に影響することが示唆された。平均個体数は水温とビオトープが正、鬱閉率が負に影響した。森林から離れて近接するビオトープは水温が上昇しやすく、ユスリカ科が増加し平均個体数が増加したと考えられる。相補性解析の結果、選定上位10位以内のビオトープは、山間部、平野部がそれぞれ含まれるとともに、管理形態の異なるビオトープが多く含まれたことから、それらを相補的に保全する重要性が示唆された。