| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-373 (Poster presentation)
近年、環境水中に含まれるDNAを回収・分析し、水生生物の在不在や生物量を推定する環境DNA分析が注目されているが、いくつかの課題や限界がある。水中で長時間残存し、上流から輸送されたDNAを検出する偽陽性の問題や、生物の成長段階の区別や生理状態の推定ができない問題である。一方で不安定な物質であるRNAは環境中でDNAより速く分解され、環境DNAで起こりうる偽陽性の問題の改善が期待される。また、生物のメッセンジャーRNAの発現は産卵などの生理状態や環境応答により変化し、これを環境中から検出できれば生物の保全に役立つ情報を簡便に得られる可能性がある。しかし、環境RNAの動態に関する知見は僅かであり、環境要因(水温とpH)が環境RNAの分解に与える影響は評価されていない。本研究ではゼブラフィッシュ(Danio rerio)の飼育水を3つの温度(10、20、30 ℃)と3つのpH(4、7、10)を組み合わせた9条件でインキュベートし、168時間後までのミトコンドリア・チトクローム b遺伝子の環境DNAと環境RNA、核・β-2ミクログロブリン遺伝子の環境RNAの濃度の経時変化を定量した。各条件の標的遺伝子の分解速度を指数関数的減衰モデルで算出し、比較した。結果、中性条件では環境DNAとRNAの分解速度は同程度であり、環境RNAは環境DNAで起こりうる偽陽性の問題を改善する手段としては適していない可能性が示唆された。アルカリ性条件の環境RNAの分解速度は20℃以上で顕著に大きくなり、アルカリ性の水域では環境RNAの検出感度が低下する可能性がある。対して、酸性条件での分解速度が最も小さくなり、RNAとpHの安定性に関する既存の知見と同様の傾向がみられた。この環境RNAの動態に関する知見は、水試料から生物の保全に関する有用な情報を推定する技術を検討、発展させていく上で不可欠である。