| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-375 (Poster presentation)
人工林が世界的に増加する中、人工林でも生物多様性に配慮した森林管理が必要とされている。従来の主伐方法である皆伐は、森林性生物の生息地の攪乱をもたらすため、生物にとって重要な要素を残して主伐を行う保持林業が注目されている。保持林業は生物多様性保全に有益なことが示されてきたが、人工林では実証されてこなかった。本研究では、伐採の影響を強く受ける分類群である森林性コウモリ類を対象とし、トドマツ人工林の伐採地における広葉樹保持がコウモリ類の活動量に及ぼす影響を評価した。北海道中部の保持林業の実証実験地において調査した。皆伐区、広葉樹を単木的に保持して伐採する単木中量保持区(50本/ha)と単木大量保持区(100本/ha)、未伐採人工林区の4処理区(それぞれ3回の繰り返し)において、コウモリ属の音声(通過、採餌)を収集し、一般化線形混合モデルを用いて、出現したコウモリの属数、各グループ(林内、開放地)の活動量を4つの処理間で比較した。
出現コウモリ属数と林内グループの通過・採餌の活動量は皆伐区において未伐採人工林区や単木大量保持区より有意に少なかったが、単木中量保持区と単木大量保持区は未伐採人工林区と有意差がなかった。本グループは開放地を忌避する傾向があるが、伐採地に広葉樹を保持することで、林内グループの好む生息環境を提供できる可能性が示唆された。開放地グループでは予想に反して、通過・採餌の活動量が皆伐区において未伐採人工林区や単木大量保持区より有意に少なかった。本研究の結果より、人工林伐採地での広葉樹保持は林内グループが伐採から受ける負の影響の緩和に繋がること、保持量が多い方がその効果は高いことが明らかになった。保持林業を適用する際、広葉樹が多い人工林の伐採では多くの広葉樹を保持することで保全効果を高め、広葉樹が少ない人工林では木材生産効率を優先させることも重要な選択肢となるだろう。