| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-377  (Poster presentation)

シジュウカラの音声信号の伝達に騒音が及ぼす影響~警戒声の種類と情報量に着目して~
Effects of noise pollution on the acoustic signal transmission of Japanese great tit: focusing on alarm call types and the amount of information

*守谷元瑛, 先崎理之, 北沢宗大, 河村和洋, 中村太士(北海道大学)
*Motoaki MORIYA, Masayuki SENZAKI, Munehiro KITAZAWA, Kazuhiro KAWAMURA, Futoshi NAKAMURA(Hokkaido Univ.)

人口の増加と産業の発展に伴い、環境中への放出が増大している環境汚染因子の一つに人為騒音がある。人為騒音の周波数は、動物が警戒や求愛時に発する鳴き声の周波数と重複する。そのため、騒音は動物の鳴き声をかき消し、鳴き声の聞き手の受信能力を低下させると考えられてきた。一方、近年になり、動物は単一の意味を持つ鳴き声を単独で発するだけでなく、別の鳴き声と連続して発することで複数の情報を一度に伝搬していることがわかってきた。このように複数の鳴き声が連続して発せられた場合、より多くの情報を一度に処理しなければならない。そのため騒音下では、ある鳴き声の聞き手の受信能力は、その鳴き声を単独で聞いた時より複数の鳴き声の一部として聞いた時の方が低下しやすいと考えられる。そこで本研究では、スズメ目鳥類のシジュウカラをモデル種とした野外プレイバック実験で、この仮説を検証した。
調査は2020年夏季に北海道千歳市と苫小牧市の森林で行った。30個体のシジュウカラについて、警戒声と警戒集合声の再生に対する警戒声の鳴き返し回数を騒音下と非騒音下で比較した。さらに別の60個体について、集合声と警戒集合声に対する集合声の鳴き返し回数、集合声を再生したスピーカーに接近し始めるまでの時間、スピーカーへの最接近距離、スピーカーへの接近確率を騒音下と非騒音下で比較した。その結果、一般的に騒音は、鳴き声の種類とは無関係にシジュウカラの応答に負の影響を与えていた。しかし、騒音下でのスピーカーへの接近確率は、集合声を再生した時よりも警戒集合声を再生した時により大きく減少した。この理由として、周波数幅の広い鳴き声の直後の鳴き声が聞こえづらくなる知覚バイアスという現象が考えられた。本研究により、動物の音声コミュニケーションへの騒音の負の影響が、鳴き声の情報量が多くなることで大きくなりうることが初めて明らかになった。


日本生態学会