| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-382  (Poster presentation)

湧水が作り出すミクロハビタットに対する生物の選好性:印旛沼流域の谷津での検討
Preference of organisms for microhabitats created by spring water in the Inbanuma watershed

*平野佑奈(東邦大学), 西廣淳(国立環境研究所, 東邦大学)
*Yuna HIRANO(Toho Univ.), Jun NISHIHIRO(NIES, Toho Univ.)

 関東地方に特徴的な台地の辺縁部に生じる小規模な谷(谷津)の奥部では、台地の地下水を供給源とする湧水が認められる。湧水は季節を通して温度が安定しているという特徴を持ち、湧水周辺の湿地は、その環境に依存した生物からなる固有性の高い生物相が形成される。しかし近代化に伴い、谷津を取り巻く環境は変化している。埋め立てによる谷津自体の消失や、集水域が人工的な土地利用に転換したことによる湧水量の減少、伝統的管理によって維持されてきた砂地水路の減少が起こっている。このような環境変化は、湧水依存生物の生息を脅かす可能性がある。固有性の高い生物相の保全のためには、各種の分布に影響する要因とその関係を明らかにすることが重要である。本研究では湧水が作り出す環境を生物がどのように利用しているかを明らかにするため、以下の調査・解析を行った。①湧水湿地の生物相の把握、②オニヤンマ幼虫・サワガニおよび同所的に見られることが多いアメリカザリガニに注目した分布に影響する環境要因の検討。
 調査は千葉県北部に位置する印旛沼流域で行った。神崎川、桑納川、高崎川流域の中からランダムに37カ所を選定した。出来る限り谷の上流の湿地において物理環境の測定と生物の採取を行った。オニヤンマ幼虫・サワガニのCPUEに影響する要因を、パス解析で検討した。
 調査全体で10目21分類群が確認できた。環境省のレッドリストに掲載されているホトケドジョウなども確認できた。オニヤンマ幼虫・サワガニは25地点、アメリカザリガニは15地点で確認できた。オニヤンマ幼虫・サワガニはアメリカザリガニとは排他的に分布していたものの、パス解析の結果からは、アメリカザリガニによる直接的な影響は小さく、物理環境が分布に与える影響の方が大きいことが示唆された。また背景として集水域の土地利用の重要性も示唆された。


日本生態学会