| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-385  (Poster presentation)

市民科学を利用したコウノトリのモニタリング
Monitoring of Oriental White Stork using citizen science

*大坂真希(東京大学), 吉田丈人(東京大学), 安川雅紀(東京大学), 佐竹節夫(日本コウノトリの会)
*Maki OSAKA(Tokyo Univ.), Takehito YOSHIDA(Tokyo Univ.), Masaki YASUKAWA(Tokyo Univ.), Setsuo SATAKE(Oriental White Stork of Japan)

 コウノトリは、IUCNレッドリストにおいて絶滅危惧IB類に指定されている大型の湿地性鳥類である。兵庫県豊岡市で始まった野生復帰の取組みは順調に進展し、野外の個体群が再生に向かっている。200羽を超える野生のコウノトリが日本列島に生息するようになった現在、これまでの研究で指摘されてきた生息環境の特徴を、野生コウノトリの利用環境データによって検証することが可能となっている  。市民参加によるモニタリングプログラム「コウノトリ市民科学」が実施されており、標識された個体について広域的な観測データが収集されつつある。本研究は、コウノトリ市民科学に報告された目撃情報を用いて生息適地推定を行い、幼鳥と繁殖個体の生息環境に重要な景観を検討した。
 コウノトリ市民科学に報告された日本全国の目撃情報を用い、MaxEntにより生息適地を推定した。その結果、幼鳥と繁殖個体の両方で、水田が重要な景観であることが示された。また、繁殖個体においては、湿地も重要な景観であることが示された。幼鳥より繁殖個体において湿地の重要度が高かったのは、水田の多くで排水がされ餌生物が少なくなる季節が産卵や抱卵  、育雛前期の時期に重なっており、その季節は、餌の要求量が大きい繁殖個体にとって湿地が重要な採餌場所であったからかもしれない。また、繁殖個体より幼鳥の生息適地において市街地の重要度が高かった。これは、同じ場所で毎年繁殖を繰り返す繁殖個体とは異なり、探索的な地域移動を盛んに行う幼鳥は、生息に適さない地域でも一時的に目撃される機会が多かったためかもしれない。また、成鳥と幼鳥のいずれにおいても、人為的な景観がある程度存在する地域を利用する傾向があり、地域の安全な場所で採餌・繁殖活動を行えるように誘導することも課題といえるだろう。今後、長期間かつ多くの個体の情報を蓄積するコウノトリ市民科学を野生復帰の管理や計画へ活用していくことが望まれる。


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