| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-386 (Poster presentation)
半自然草原は近年の農業様式の変化に伴い世界各地で急激に減少しており、多くの草原性生物が絶滅の危機に瀕している。近年、草原の継続期間が長い(歴史が古い)程、生物多様性が高く特有の生物群集が存在することが相次いで報告されている。草原の時間的連続性は生物多様性保全のための重要な指標となり得るが、どんな特性の種が古草原に依存するのかはまだ未解明である。本研究では、植物に依存的で、種の多様性が高い蛾を対象に、(1)古・新草原および森林間で種組成が違うのか、(2)古草原の空間分布は蛾群集に影響するのか、(3)どんな種特性の蛾が古草原に依存的かを検討した。
長野県菅平高原の古草原7地点、新草原6地点、森林6地点の計19地点にライトトラップを設置、2020/5~9に各地点で月に2晩、蛾を採集した。なお、隣接する異なる植生からの混獲を防ぐために、光の照射範囲を覆いにより左右120度の範囲に制限する新型ライトトラップを考案した。
調査の結果1091個体のうち765個体を168種に同定した。古・新草原では種組成に差はなかったが、草原と森林では種の構成が異なり(p < 0.001 PARMANOVA) 、新型トラップが混獲抑制に有効であることが示された。半径400m以内の古草原面積が大きいと特有の蛾類群集が見られた(p < 0.05 PARMANOVA)。また、広い古草原では蛾の季節変動が大きく(p < 0.001 PARMANOVA)、1化性種の個体数が多いこと(p < 0.001 ポアソン回帰)が分かった。
指標種分析により古草原では2種、新草原では1種が検出された。古草原指標種の内一種は、絶滅危惧種の草原性の蛾であるキバラヒトリであった。新草原の指標種として農業害虫として知られるジェネラリストのシロモンヤガが選ばれた。新しい草原ではジェネラリストが多く、広い古い草原には特定の季節を利用するスペシャリストが多い可能性がある。