| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-388  (Poster presentation)

水田地帯におけるカエル類の生息数と食性に及ぼす農法、草刈りおよび排水路構造の影響
Effects of farming, mowing, and drainage channel structure on the abundance and diet of frogs in a paddy field landscape

*工藤秀平, 西川潮(金沢大学)
*Shuhei KUDO, Usio NISIKAWA(Kanazawa Univ.)

集約農業の普及に伴う農薬・化学肥料を多用した慣行農法や圃場整備事業は、農業の生産性の向上に貢献してきた一方で、水田の生物多様性の減少をもたらしたと言われる。本研究では、水田生態系におけるニホンアマガエル(Hyla japonica)と準絶滅危惧種トノサマガエル(Rana nigromaculata)の2種を対象に、両種の生息数に及ぼす農法、草刈り強度、排水路の深さ等の影響を明らかにした。本研究では、1)自然栽培田(無農薬・無肥料田)では慣行栽培田と比べ餌となる節足動物が多いため、カエル類の生息数が多い、2)強度な草刈りが行われる水田ではカエル類の生息数が少ない、3)併設された排水路の構造が、足に吸盤を持たないトノサマガエルと吸盤を持つニホンアマガエルに異なる影響を与える、という3つの仮説を立案した。2020年6~8月にかけての耕作期間中に計5回、石川県羽咋市と宝達志水町の自然栽培田7筆と慣行栽培田7筆の計14筆で調査を行った。一般化線形混合モデル解析の結果、農法の異なる水田間でカエル類の生息数に違いは見られず、仮説1は支持されなかった。仮説2に関しては、8月上旬のトノサマガエルで草刈り強度が負の相関を示したことから、一部支持された。また、多くの調査日でトノサマガエルの生息数に排水路の深さが負の影響を及ぼしていたのに対し、ニホンアマガエルではむしろ排水路の流速が正の影響を与えたことから、仮説3を支持する結果が得られた。加えて、7月上旬では両カエル種の生息数が互いに負の影響を及ぼしており、その食性類似度(Morisita指数)も66%と、他の時期の類似度(37~48%)と比べ高い値を示したことから、資源を巡る競争の存在が示唆された。以上より、水田生態系のカエル類の保全に際しては、自然栽培の取り組みよりも、草刈り強度や水路構造に配慮することが重要と考えられた。


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