| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-394 (Poster presentation)
森林はCO2吸収源として重要な役割を果たしているが、気候変動や風倒後の管理は森林からのCO2放出を増加させる可能性がある。気温上昇によって枯死木や土壌の分解速度が上昇しCO2放出量が増加するほか、風倒撹乱の頻度や強度の増大により元のCO2吸収機能の回復が困難となる可能性もある。倒木搬出や掻き起こしといった風倒後の管理は前生稚樹を破壊し植生回復を遅らせるため、撹乱前の炭素収支への回復に影響を与える。風倒後管理間で炭素収支を比較するためには、施業や搬出木由来の木材製品の廃棄等に伴うCO2排出量も含めた包括的な評価が必要である。本研究では、森林景観モデルLANDIS-IIを用いて、様々な気候と風倒レジーム下で風倒後管理が北方林の炭素収支に及ぼす影響を評価した。また、風倒後管理に関わるライフサイクルアセスメント(LCA)も行い、炭素収支を最大化できる風倒後管理を検討した。東京大学北海道演習林内の針広混交林(約12,169 ha)を対象に、風倒後管理シナリオ: WT(倒木残置); SL(倒木搬出); SLSC(倒木搬出+掻き起こし)に加え、4つの風倒レジームシナリオ、3つの気候シナリオの総当たり、計36シナリオについて115年間のシミュレーションを各3回行なった。LCAでは、倒木搬出施業、搬出木輸送、木材製品生産、木材製品生産過程での廃棄、製品化後の廃棄に伴うCO2排出量を推定した。風倒頻度や強度が増大すると、景観の純生態系生産量(NEP)はSL, SLSC, WTの順で大きくなった。倒木残置によるその後の純一次生産量回復の速さよりも、枯死木の増加による従属栄養呼吸量の増加分が大きかったためWTでNEPが最小となった。LCAを含めた炭素収支の指標、Net Forest-sector Carbon Balance(NFCB)のシミュレーション全期間の累積値はWTで最大となり、SL, SLSCでは温暖な気候下で風倒頻度・強度が増大した場合には負の値(正味CO2を放出)を示した。本研究から、気候変動下で炭素収支を最大化できる風倒後管理は倒木残置であることが示唆された。