| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-400 (Poster presentation)
日本の多雪地域では、冬期に大量の凍結防止剤が幹線道路を中心に散布される。特にNaClに関しては、安価であり効果の持続性も高いという観点から、多くの自治体で凍結防止剤として採用されている。しかしながら、こういったNaClの散布は、本来ではあり得ない量のNaを大量に環境中へ導入することで、野外に人工的な高Na環境を形成することになる。にもかかわらず、このNaClが野外の生物に与える影響について調べた例はほとんどない。そのため本研究では、道路沿いに広くみられるイタドリと、それを利用するクロヤマアリに対し、凍結防止剤として散布されるNaCl が与える影響について検証した。この二種の間には、アリはイタドリの花外蜜を利用し、イタドリはアリに植食者を撃退してもらうという、相利共生関係が知られている。本研究ではまず、NaClの散布開始前(9月)と散布終了後(4月)にイタドリの葉と花外蜜、およびクロヤマアリを採集し、Na濃度を測定した。この調査の結果、イタドリの葉と花外蜜、およびクロヤマアリの全てにおいて、NaClの散布直後である春先にNa濃度が高いことが明らかとなった。また、散布地点に近いほどNa含有量が高いことも明らかとなった。さらに、このような植物を介したNa集積によってアリの形態や行動が変化するかを検証した。まず採集してきたアリの胸長と、採集地点および採集時期との関係を検証したところ、NaClの散布地点に近いほどアリの胸長が大型化し、6月に最も大型化する傾向がみられた。また、アリの肉食性と、採集地点および採集時期との関係を検証したところ、春先では散布地点から遠いほどアリの肉食性が増大することがわかった。今回の発表ではこれらの結果をふまえ、凍結防止剤の散布が野外の生態系に与える影響について考察する。