| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-401  (Poster presentation)

浅間山における植生モニタリングとニホンジカの糞サンプルを用いた食性評価
Vegetation monitoring and diet evaluation using fecal samples of sika deer at Mt.Asama

*北谷周也, 下野綾子(東邦大学)
*SHUYA KITADANI, AYAKO SHIMONO(Toho Univ.)

 近年ニホンジカ(以降、シカ)の高山帯、亜高山帯への侵出により、高標高域での嗜好性植物の減少に伴う植生の衰退が懸念されている。高標高域の植生は、破壊後の回復の難しさ、絶滅危惧種の多さから、早期の影響評価が必要である。浅間山では近年のシカ侵出に伴い、長野県レッドリストに記載されている植物群落を保護するために防鹿柵が設置された。現在、この地域のシカの個体数は増加していることから、今後周辺植生に影響が出てくる可能性が高い。本研究では、浅間山のシカによる植生影響を評価することを目的とし、剥皮調査、植生調査、花数調査およびDNAメタバーコーディング法による食性分析を行った。
 調査は、標高2000m付近に位置する浅間山湯の平で2018~2020年に行った。剥皮調査は、調査区内で生存する樹木の剥皮痕の縦横長を記録し、剥皮面積を算出した。植生調査では、防鹿柵内外に設置した調査区内で出現した植物種を記録し、柵内外の植生変化を評価した。花数調査では、柵内外設置した調査区内の花数を種ごとに計測した。食性分析では、2019~2020年に採集したシカ糞からDNAを抽出し、葉緑体DNAのrbcL領域を増幅し、餌資源として利用された植物分類群を推定した。
 剥皮調査の結果シラビソの剥皮率は3年間で17.0%上昇し、特に稚樹の剥皮率は97.7%となった。枯死に至る個体もあり、今後森林更新が阻害される恐れがあると考えられた。植生調査では種組成が変化するほどの変化は検出されなかったが、防鹿柵外で花数が減少した種が存在し、食圧により繁殖阻害が起きていると考えられた。食性分析では、227OTUの分類群が検出され、季節を通じてコケモモなどのスノキ属やミヤコザサの出現頻度が高く、絶滅危惧種であるグンバイヅルも検出された。シカは森林更新や開花などの個体群動態に影響を与えていると考えられ、シカの個体数調整が望まれる。


日本生態学会