| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-006  (Poster presentation)

交尾器形態の変異と遺伝的変異との関係
Relationship between copulatory morphological variation and genetic variation

*水流尚樹, 倉西良一(千葉大学)
*Naoki TSURU, Ryoichi KURANISHI(Chiba Univ.)

ナガレトビケラ属は、幼虫期を水中で生活する水生昆虫で、世界から約800種、日本からは57種(未記載種多数)記録されており、河川の源流から中流に広く生息する。その中で、私が研究で用いるエダナガレトビケラ種群は、東アジアから北米に15種、日本から4種知られている。日本産の4種はRhyacophila articulata、R.towadensis、R.hokkaidensis、R.lezeyiとされているが、towadensisとhokkaidensisの記載が幼虫だったこともあり、分類学的な混乱があった。私の研究では、この4種のうちサンプルの少ないarticulataを除いた3種の形態の変異を定量化し、形態に基づく識別点を明らかにするとともに、遺伝的変異と地理的な形態変異の関係を調べることを目的とした。材料は日本各地のエダナガレトビケラ種群の標本を用いた。交尾器を観察するために、水酸化カリウムで硬膜化部分以外を透明化し、交尾器の計11箇所ついて各部位の幅や長さを測定して数値化するとともに、交尾器の各形態を詳細に観察した。また、脚からDNAを抽出し、COI領域を解析した。測定した形態について主成分分析を行った結果、下部付属器端節の基部の長さとⅩ節の幅と長さにおいて種間に明らかな差が見られ、実際にarticulataを含めた4種を観察した結果では上から見たⅩ節の形態において種間での明らかな違いが見られた。また、測定していない部分においてもメスのⅧ節の形状や、幼虫の頭部の色などで種間での違いが見られた。次に、COI領域を解析して系統樹を書いた結果、既存の4種はそれぞれ単系統に分けることができたが、towadensisにおいて同じ種内でも北海道産の個体群と本州産の個体群に差が見られた。形態についてもtowadensisの種内で主成分分析した結果、北海道産と本州産で区別できるような部位があることが分かった。このような結果から、towadensisとされている種は2種に分かれる可能性があると考えられる。


日本生態学会