| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-008  (Poster presentation)

湧水支流と周辺の非湧水河川におけるヤマメの生息密度と胃内容物の季節変動
Seasonal changes in abundance and gut content of Oncorhynchus masou masou in spring-fed tributary and adjacent non-spring-fed rivers

*境優(国環研), 星剛介(中央大学), 脇谷量子郎(東京大学)
*Masaru SAKAI(NIES), Gosuke HOSHI(Chuo Univ.), Ryoshiro WAKIYA(Univ. Tokyo)

地下水の湧出によってもたらされる湧水支流は、表面水の影響が大きい非湧水河川と比べ流量・水温ともに安定した特異な生息環境を形成している。安定した流量は河床攪乱を減じ砂泥に富んだ底質を、安定した水温は周辺河川の温度ストレスを回避するための避難場所を提供すると考えられる。本研究では、湧水支流のこれらの安定性に着目し、ヤマメの生息密度・餌資源内容の季節変化を湧水支流と周辺の非湧水河川で比較した。
 北海道黒松内町を流れる朱太川水系の低地帯において湧水支流と近隣の非湧水支流、各支流と本流の合流点下流部でヤマメの採捕・胃内容物の採取を行った(計4地点)。調査は、夏秋冬春期の4回実施した。各調査地点に40mの調査区間を設け、本流では投網で、支流では電気ショッカーでヤマメを採捕した。各調査区間で水位・水温を経時的に観測するとともに底生無脊椎動物もサーバーネットで採集した。
 湧水支流では、水位・水温ともに季節変化が小さかった。河床の細粒土砂被度は湧水支流で有意に高く、洪水による土砂流亡が少ないためと考えられた。底生無脊椎動物のバイオマスはいずれの季節でも湧水支流で高く、特に細粒土砂に潜って生活する掘潜型(ユスリカ科)が高密度に生息していた。また、湧水支流で秋期にサケの遡上が確認され、湧水環境を選好して産卵する本種の生態との関連が考えられた。
  ヤマメの胃内容物のバイオマスは季節を通して湧水支流で高く、夏・春期でハエ目(ユスリカ科)、秋・冬期でサケ目(イクラ)が多く含まれていた。湧水支流のヤマメの生息密度は、春・秋期より夏・冬期で高く、周辺の非湧水河川との水温差が大きいとき避難場所を提供している可能性が考えられた。冬期は温かい水温に加えイクラも得やすいため、生息密度が顕著に高かった。以上のことから、流量・水温が安定した湧水支流は、掘潜型とサケを介した餌資源および避難場所をヤマメにもたらしていると考えられた。


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