| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-013 (Poster presentation)
猛禽類はアンブレラ種であり、その生息環境は高い生物多様性を内包すると考えられている。ノスリは主に九州以北で越冬する渡り性の中型猛禽類であり、秋から春までの数か月間、西日本には多くの個体が滞在する。西日本の冬期の里山生態系の最上位種でもあり、厳冬期を乗り切れるだけの食物資源を要する場所に越冬なわばりを形成する。本研究では、ノスリの冬期の生息環境を明らかにするために、まず2016年から2020年にかけて西日本の4地域(兵庫県淡路島・福岡県・長崎県・宮崎県)において合計29個体のノスリを捕獲し、GPS発信機を装着して冬期の移動を追跡した。そして得られた測位点の位置情報をもとに、dynamic Brownian Bridge Movement Model(dBBMM)による越冬期の行動圏推定を行った。次にGIS解析を行い、推定された行動圏がどのような環境なのかを植生図を用いて調べた。その結果、ノスリは森林と農地が多く含まれるエリアを行動圏としていた。内訳をみると、行動圏内の森林植生は、淡路島や長崎県では常緑広葉樹林の割合が大きい一方、福岡県では針葉樹林や竹林、宮崎県では針葉樹林の割合が大きかった。農地植生は、福岡県・宮崎県では水田や畑地、淡路島では水田の割合が大きい一方、長崎県では果樹園の割合が大きかった。これらは各地域の里山環境の土地利用をある程度反映したものと思われる。続いて、各地域において推定した行動圏と同規模の対照区を複数抽出し、一般化線形モデルを用いて、森林面積・農地面積・市街地面積・林縁長・起伏・農地のモザイク性がノスリの存在に影響しているかどうかを調べた。以上の解析により、ノスリは越冬する地域の特性に応じて、少しずつ利用環境が異なっていることが示唆された。このようにノスリが柔軟に生息地選択を行っているならば、ノスリの存在は、さまざまな環境下において、冬の生物多様性の指標となりうるかもしれない。