| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-014  (Poster presentation)

栄養多型的なアカウミガメの産卵頻度は同様に年変異する 【B】
Trophically polymorphic loggerhead sea turtles show similar interannual variability in clutch frequencies 【B】

*畑瀬英男(東大大気海洋研), 大牟田一美(屋久島うみがめ館)
*Hideo HATASE(AORI, Univ. of Tokyo), Kazuyoshi OMUTA(Yakushima Sea Turtle Res. G.)

 種レベルにおいて、ウミガメの栄養段階と産卵頻度(一産卵期内の産卵回数)の年変異性には相関があり、栄養段階が低い種ほど産卵頻度が年変異しやすく、その結果、巣数も年変異しやすいという報告がある。すなわち栄養段階の低い草食性のアオウミガメの産卵頻度や巣数は年変異しやすく、栄養段階の高い肉食性のアカウミガメのそれらは最も年変異が少ないと考えられてきた。近年、同一個体群内においても栄養段階に違いがあること、すなわち栄養多型が報告されるようになってきた。例えば日本で産卵するアカウミガメの場合、小型個体ほど外洋で栄養段階の低い浮遊生物を、大型個体ほど浅海で栄養段階の高い底生動物を食べる傾向がある。ゆえにアカウミガメの産卵頻度も大きく年変異し、それが巣数の年変異に関わっている可能性が出てきた。本研究では8年分の調査に基づき、アカウミガメの栄養多型が産卵頻度と巣数の年変異性に及ぼす影響を明らかにした。 
 1999~2017年のうちの非連続的な8年間の、屋久島永田浜におけるアカウミガメの上陸産卵データを解析した。各年には安定同位体分析用に計531個体が産んだ卵を採取した。同位体比に基づき判別した外洋浮遊生物食者と浅海底生動物食者の間で、産卵頻度の年変異様式を比較した。また各年の平均産卵頻度と巣数の関係も調べた。
 浅海摂餌者の産卵頻度の方が外洋摂餌者のそれよりも有意に多かったが、両摂餌者の産卵頻度は有意な年変異を示さず、交互作用はなかった。このことは、栄養段階の低い外洋の浮遊生物の豊度も栄養段階の高い浅海の底生動物の豊度も、同じように年変動していることを示唆する。各摂餌者の平均産卵頻度と推定巣数や、全摂餌者の平均産卵頻度と全巣数に相関がなかったことは、栄養多型的なアカウミガメ産卵群においても産卵頻度が全巣数に及ぼす影響は少ないことを示している。本種の巣数変動は産卵頻度よりも産卵頭数に大きく駆動されるようである。


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