| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-017 (Poster presentation)
捕獲圧や捕食圧がかかっていないニホンジカ個体群では、個体数が指数関数的に激増し、時に大量死することがあるものの、再び急速に個体数を増加させ、安定することはないと考えられてきた。ただし、捕獲圧がかかっていない個体群を20年以上、継続的モニタリングした事例は少なく、十分な知見が集まっているとは言えない。ニホンジカは多様な生態系に生息し、各地域個体群の動態のバリエーションも大きいと予測される。
本研究の調査地である屋久島西部・世界自然遺産地域の照葉樹林では、過去数十年間シカの捕獲圧がほとんどかけられてこなかった。そこで我々はこの地域の半山地区と、そこから1.3km離れた川原地区の2か所で、1998~2020年まで毎年夏に踏査によるルートセンサスを実施し、個体群動態を調べてきた。シカ生息密度は1998~2014年は年率8.7%の増加傾向にあった。しかし、2014~2020年では年率19.4%の減少に転じ、1990年代レベルの生息密度まで低下していた。2014年以降の個体数減少は糞隗法や自動撮影カメラ撮影率調査でも確認された。半山地区と川原地区の生息密度は増加期、減少期ともに違いがなく、同調して変化していた。個体数減少は短期間の大量死ではなく、数年かけて進行していた。減少期間中(2014~2018年)に半山地区で識別していたシカ19個体(メス13頭・オス6頭)を対象に地区内に定住(生存・死亡)していたか、地区外へ移出したかを直接観察により確認した。その結果、年定住率は96.5%と高く、3.5%は原因不明の消失であり、地区外へ移出した個体は確認できなかった。つまり、調査地域における個体数減少要因は移出が主たるものではないと考えられた。以上から、調査地域では地域内の何らかの自然環境要因がシカ個体数を調節している可能性が示唆された。捕獲圧がかけられていないニホンジカ自然個体群が継続的に減少した事例は希少であり、今後も捕獲圧かけずに見守ることが重要である。