| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-026 (Poster presentation)
渓畔林には、その生活史で渓流と森林を往来する動物など、様々な生物が生息する。渓畔林の人為的な撹乱は渓畔林の生物多様性にも大きな影響を及ぼす。戦後、スギなどの人工林に広く置き換えられた本州以南の渓畔林が現在収穫期を迎え、主伐・間伐などの森林施業による伐採が今後拡大することが考えられる。
カマドウマ類(昆虫綱直翅目)は様々な森林の林床に生息し、ハリガネムシ類に寄生・操作されることで渓流に飛び込んで渓流魚の重要な餌資源となったり、ラン類の種子散布者でもあったりすることが知られている。このような森林の種多様性維持、物質循環などに寄与する生態的機能を持つカマドウマ類の発育段階の季節変動、森林タイプ・林分構造による種構成の違いを調査した。茨城県内の4流域5河川沿いのスギ壮齢人工林(57, 58年生)2箇所(林床の植被率約64%)、広葉樹天然林(70~87年生)3箇所(同62~75%)、皆伐地(2,3年生)2箇所(同約94%)に魚肉を使ったベイトトラップを4基ずつ設置し、2020年5月から11月までの間、月1回サンプルの回収を行った。捕獲した5種のうち、コノシタウマが最も個体数が多く、幼虫(692個体)は全期間、成虫(113個体)は7月から10月までの間全ての森林タイプで出現した。また、本種と思われる、体長3mm以下の若齢幼虫(67個体)も7月から9月までの間出現したが、皆伐地では見られなかった。全ての森林タイプでコノシタウマ以外に3種ずつ捕獲されたが、いずれも1~23個体であった。調査地7箇所のうち、スズタケが優占する天然林は林床および上木植物種数、上木幹数、胸高断面積が最も少なかったが、コノシタウマの個体数は他の調査地よりも多い傾向があった。また、皆伐地は林床の植物種数が最も多かったが、コノシタウマの個体数は少なかった。カマドウマ類は種数・個体数ともに壮齢人工林と天然林で大きな差がないが、皆伐地はカマドウマ類の産卵・繁殖場所として機能していないと考えられる。