| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-030 (Poster presentation)
動物死体は,エネルギーと栄養分を豊富に含む高質な資源であり,多様な生物によって利用される.とくに節足動物と脊椎動物が主要な消費者となることが多いが,これら2つの分類群による資源利用を同時に定量化した研究は限られており,脊椎動物の利用できる死体の量や質に節足動物がどの程度影響を与えるかについてはほとんど知られていない.本研究では,階層ベイズモデルを用いて,自動撮影カメラから得たデータと目視による直接観察の結果を統合し,①死体の湿重量はハエ幼虫(ウジ)の活動によってどのように減少するのか,②食肉目は死体をどのタイミングで発見するのか,③発見した時点で死体の湿重量はどのくらいか,さらに,④採食確率,すなわち食肉目にとっての資源としての死体の質は,ウジによって影響を受けるのかを明らかにした.調査は,北海道八雲町の森林において,2016年から2019年の夏季(約30日間)に,有害駆除されたアライグマの死体を用いて実施した.この結果,全ての死体(計57体)において数分以内にハエ類(主にホホグロオビキンバエ)が到着した.孵化したウジの消費活動と(おそらくそれに伴う水分の蒸発)によって,死体の湿重量は急激に減少し,その物理的状態も大きく変化した.食肉目(キツネまたはタヌキ)は,77.2%の死体に訪問した.年による変動は認められたものの,彼らによる死体の発見確率が最大となったのは湿重量が減少し始めて以降であった.発見した場合の採食確率は,経過時間(死体の状態変化)の影響を受けていなかった.本研究の結果,食肉目の利用できる死体は,質的には制限されていないものの,量的には大きな制約を与えられていたことが示唆された.一方で,ウジの活動による揮発性物質の拡散が食肉目による発見確率を上昇させた可能性もある.ウジと食肉目の間には,死体をめぐって消費型競争が起こっていること,この競争関係は非対称的であることが示唆された.