| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-033  (Poster presentation)

巨大防潮堤建設時・建設後における岩手県津軽石川河口干潟のベントス群集の長期変化
Long-term changes in macrobenthic community in the Tsugaruishi River tidal flat, Iwate Pref., during and after the construction of a giant seawall

*阿部博和(岩手医科大学), 菅孔太朗(岩手医科大学), 松政正俊(岩手医科大学), 鈴木孝男(みちのくベントス研), 木下今日子(東北大学), 柚原剛(東北大学)
*Hirokazu ABE(Iwate Medical University), Kotaro KAN(Iwate Medical University), Masatoshi MATSUMASA(Iwate Medical University), Takao SUZUKI(Michinoku Res. Inst. Benthos), Kyoko KINOSHITA(Tohoku University), Takeshi YUHARA(Tohoku University)

東北地方三陸海岸の中央部に位置する岩手県宮古湾は,2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による大津波により大きな被害を受けた。宮古湾の最奥部,津軽石川の河口には陸中リアス海岸で最大規模の干潟が形成されており,環境省の第7 回自然環境保全基礎調査 浅海域生態系調査(2002年)や東北地方太平洋沿岸地域 生態系監視調査(2012~2017年)などの干潟ベントス調査が行われている。津軽石川河口干潟の周辺では,2012年4月から2017年3月にかけて高さ10.4 mの巨大防潮堤の建設工事が進められており,そこに生息するベントスは津波だけではなく復旧・復興工事にも大きな影響を受けたものと思われる。本研究では,津波や巨大防潮堤建設などによる環境変化に対する生物の応答を解明するために,津軽石川河口干潟において行われた干潟ベントス調査のデータを基にマクロベントス群集の長期的な変化を解析した。
これまでのデータをまとめた結果,津軽石川河口干潟から203種の底生動物(貝類50種、52種、67種、多毛類、甲殻類など34種)が記録されていることが確認された。階層的クラスター解析とnMDS解析の結果,2011年の東北地方太平洋沖地震後も,マクロベントス群集は不安定な状態が数年間続いていたが,2017年以降は群集構造が安定化したことが明らかになった。震災後の群集構造の不安定間は大きく2 つのフェーズに分けることができ,2011年から2015年までは記録種数が横ばいのまま群集構造が変動したフェーズ,2015年から2017年までは記録種数の増加に伴い群集構造が変化したフェーズであった。前者のフェーズは震災・津波とその後の防潮堤建設の影響を受けた環境が変動的な時期であり,後者のフェーズは防潮堤建設の大部分が終了して環境が安定してきた時期であるといえる。防潮堤の建設は目に見える形での環境変化を伴っており,大規模な環境改変が長期的なマクロベントス群集の変化につながっていた可能性は高いだろう。


日本生態学会