| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-034 (Poster presentation)
トキの野生復帰を支えるためには、トキの餌生物の解明は必須である。これまでトキの採餌行動の観察によると、トキはドジョウなどの水生生物だけでなく、陸域で採取できる小型の無脊椎動物も比較的高頻度で利用することが明らかにされている。また、トキの死亡個体の胃内容物分析や、糞の中の被食者DNAのバーコーディングによって、餌生物に占める昆虫の割合が高いこともわかってきた。なかでも、被食の割合や、採餌場所、体サイズの観点から、ゴミムシ類(甲虫目, オサムシ科)は重要な餌と考えられる。著者らはこれまで、佐渡島において様々なタイプの水田でゴミムシ類の群集構造を調べ、未整備圃場より整備済の水田畦畔でゴミムシ類の現存量が低いことを明らかにするなど、水田や里山林の管理様式の変化がゴミムシ群集に負の影響を与える可能性があることを示してきた。先行研究では、ゴミムシ類の環境の変化に対する反応は種ごとに異なることが知られている。佐渡島におけるトキの餌場の維持や、今後島外で餌場を効率的に整備するためには、餌生物の種特性を考慮した生息場所の管理手法の構築が必要である。しかしながら、これまでの方法ではゴミムシ類の種レベルの利用までは明らかにできていない。そこで、著者らは、精度の高い餌生物の解明を目指し、佐渡に生息するゴミムシ類の中から、トキの採餌場と生息地が重複する種を対象にバーコード情報を集めた。これまでに対象種の約85%から211のバーコード配列を収集し、トキの糞から抽出したゴミムシ類の配列と照合した。その結果、3配列3OTUが属レベル、46配列14OTUが種レベルまで確からしい推定ができた。一方、6配列は近縁群まで絞り込むことができなかった。参照データの充実はより精度の高い同定を可能にしたが、同時にライブラリ構築におけるいくつかの課題も明らかとなった。