| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-037 (Poster presentation)
カナメモチは、東アジアの暖温帯に分布するバラ科の常緑小高木であり、日本では近畿、四国東部、中国地方に主に分布しており、九州天草地方にも隔離分布が見られる。カナメモチのcpDNAを用いた先行研究では、近畿と天草の集団間に大きな遺伝的分化があり、最終氷期の逃避地が異なっていたと推察されている。我々の研究により,京都市近郊林ではカナメモチの果実にスガ科のセジロメムシガが寄生し、幼虫による果実・種子への摂食が成熟果実量の年変動に大きく影響していることが明らかとなってきている。セジロメムシガの幼虫が他のバラ科果実から見つかったことはなく、メス成虫に複数種のバラ科果実を与えてもカナメモチに産卵選好性を示すことが分かりつつある。本研究では、セジロメムシガとカナメモチの相互作用を全分布域で解明するため、京都、滋賀、兵庫、奈良及び天草上島、下島においてカナメモチの複数個体から果序を採取し、果実・種子に対する加害昆虫相を調べ、カナメモチの果実・種子内を摂食していたセジロメムシガ幼虫をサンプリングし、mtDNAのCOIバーコーディング領域の塩基配列を用いた集団遺伝学的解析を行った。
調査した6地点中5地点について、加害されたカナメモチ果実のうち約9割がセジロメムシガによるものであった。セジロメムシガ95個体のCOI領域からは16個のハプロタイプが検出され、ハプロタイプ多様度は0.846、塩基多様度は0.00217であった。ハプロタイプの分布に地理的な偏りは認められず、集団全体に含まれる遺伝的変異のうち80%以上を個体間の差異によるものが占めていた。以上の結果から,セジロメムシガはカナメモチが最終氷期に逃避地に隔離分布していた際にも各逃避地で複数のハプロタイプを維持できる程度に集団サイズを維持していたか,各逃避地で固有のハプロタイプが固定したが最終氷期後の分布再拡大と集団間交雑によって集団構造が見られない程度にまで遺伝的交流が進んだと考えられる。