| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-042 (Poster presentation)
マメ科トビカズラ属は、東・東南アジアで哺乳類に特化した送粉を行っている植物である。本属は主にコウモリ媒とされていたが、リスやハクビシンなどの非飛翔性種を含む多様な哺乳類種に送粉されていることが明らかになってきた。植物が送粉者を誘引するための形質の1つが花の香気成分である。本研究では、本属の哺乳類媒の進化と多様化における香気成分の機能を明らかにすることを目指し、送粉者が特定されているアジア産トビカズラ属について、①送粉者と香気成分の構成とに関係性があるか、②系統関係は香気成分の構成に反映されているか、③他地域の哺乳類媒植物で優占する成分が検出されるかについて検討した。
8種21個体を対象とし、1個体につき1~6花の香気をDynamic-Headspace法によりTenaxチューブに採集し、TD/GC-MSにより分析した。データベースを参照して化合物を同定し、明らかな不純物を除去した後、化合物の相対割合を算出した。1個体で複数花から香気を採集した場合は、相対割合を平均した値を用い、多変量解析を行った。
計223の化合物が検出された。種内で複数個体を分析した種のうち、ワニグチモダマは西表島産と沖縄島産で化合物の構成が大きく異なっており、カショウクズマメは西表島産3個体間で構成比が大きく異なっていた。一方、タイ、台湾、沖縄島、大分と広域から採集したウジルカンダはほぼ同じ成分構成で、炭化水素である1,3-ペンタジエンが大きな割合を占めていた。香気を採集した全21個体についての主成分分析では、系統的に近縁な種間でも、送粉者が同じ種間でも成分構成が類似する傾向はみられなかった。中南米のコウモリ媒やアフリカの地上性哺乳類媒植物では、硫黄化合物や脂肪族ケトン類が優占するとされており、本研究でも14の硫黄化合物が検出された。しかし、香気成分の構成は他地域における既報の傾向と必ずしも一致しなかった。香気成分の生態的役割についてはさらなる検討が必要である。