| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-049 (Poster presentation)
都市の爆発的な拡大とともに、野生生物が都市環境に曝される機会も増加している。都市になる前からそこに生息していた種や新たに都市に侵入してきた種どちらであっても、都市に生息していく以上、自然環境とは大きく異なる選択圧のもとで新たに適応進化する必要がある。都市特有の選択圧には様々なものが考えられるが、その中に騒音がある。騒音は生物にとってストレスとなるだけではなく、音響コミュニケーションをおこなう動物にとってはその阻害要因にもなり得る。騒音環境下で生息する動物はそうでない環境に生息する同種と比べて低い周波数の音響シグナルを発したり、鳴く時間をずらしたりといった適応的と考えられる行動の違いを示すことが知られている。しかし、それが可塑的な応答なのか遺伝的な違いによるものなのかはわかっていないことが多い。そこで、コオロギの一種マダラスズDianemobius nigrofasciatusを都市と郊外の各3個体群から採集し室内で繁殖させ、共通環境下で鳴き声や行動を計測した。その結果、1日あたりの鳴き時間や鳴き声の構造には有意な違いが見られなかったが、都市の個体の方が鳴き声の周波数が有意に高かった。これは都市と郊外間の鳴き声の違いは遺伝的であることを示す結果である。今回調査した都市個体群では周囲の騒音レベルが郊外の個体群よりも著しく高かった。高い周波数は騒音の中でも比較的遠くまで届きやすいシグナルと考えられており、今回の結果は都市のマダラスズに適応的な進化が生じていることを示唆する。なお、メスの選好性や騒音の中での配偶者の定位能力にもこのような遺伝的な違いがあるのかを今後検証する予定である。