| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-050  (Poster presentation)

ヘルパーになるのはどの個体?協同繁殖する魚類の稚魚のきょうだい間闘争と分散様式
Which become a helper? Sibling competition and dispersal pattern of young in a cooperative breeding cichlid

*佐伯泰河(大阪市立大学), 佐藤駿(総合研究大学院大学), 幸田正典(大阪市立大学), 安房田智司(大阪市立大学)
*Taiga SAEKI(Osaka City Univ.), Shun SATOH(SOKENDAI), Masanori KOHDA(Osaka City Univ.), Satoshi AWATA(Osaka City Univ.)

たとえ血縁のある兄弟姉妹間であっても限られた資源を巡って争うことが知られている。このような「きょうだい間闘争」は、将来の繁殖能力や生存率といった個体の適応度に大きく影響する。本発表では「きょうだい間闘争」と親以外の個体が子育てを手伝う「協同繁殖」の関係に着目する。協同繁殖種では通常、親の巣で育った個体がその巣に残り、ヘルパーとして弟妹の子育てを手伝う。これまでの我々の研究から、タンガニイカ湖産カワスズメ科魚類のNeolamprologus meeli(以下、メーリー)は、協同繁殖種であることが明らかになっている。本種は、捕食圧の高い砂地に生息する小型魚で、窪地状の巣にある巻貝の殻を隠れ家や繁殖場所として利用する。ヘルパーと幼魚は巣内で主にベントスを食べて生活するが、幼魚同士が激しく闘争することを発見した。捕食圧の高い環境では、できるだけ長く安全な出生巣に留まることが重要で、その地位の確保のために餌や隠れ家を巡ってきょうだい間で争うと考えられる。しかし鳥類や哺乳類も含め、協同繁殖種のきょうだい間闘争を引き起こす要因とその帰結についての研究はこれまで無い。
そこで本研究では、協同繁殖魚メーリーのきょうだい間闘争を引き起こす要因を明らかにするため、野外で個体識別をした幼魚の長期観察を行った。観察の結果、巣内で攻撃性の高い最大の幼魚がそれ以外の幼魚よりも長期間巣に留まり、ヘルパーとなった。また、巣内に隠れ家である巻貝が少ないほど幼魚間の攻撃頻度が高かったことから、隠れ家を巡って幼魚間で闘争していると考えられた。さらに、1ヶ月後の観察終了時、幼魚の数は観察開始時の3割まで減少した。広範囲のセンサスにも関わらず、巣の外で幼魚が見つからなかったことから、幼魚の主な消失原因は捕食によると考えられた。本研究により、捕食圧による子の分散遅延がきょうだい間闘争と協同繁殖の進化に関わることを示した。


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