| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-051 (Poster presentation)
ウミガメ類は、幼体の孵化率や性別、大きさ等に孵卵温度が影響することが知られており、昨今の地球温暖化がウミガメ類の生態に与える影響が懸念されている。一方、太古より環境の変化を経験したウミガメ類は、海水温の変化に応じて繁殖時期や繁殖場所を変化させ、実際に胚が経験する温度を間接的に調節する等、地球温暖化に適応できる何らかの生態を持つことが示唆される。そこで本研究では、東京都小笠原諸島父島大村海岸で産卵するアオウミガメを対象に、産卵のタイミングや産卵間隔等の繁殖生態に与える海水温の影響を解析し、産卵時期が海水温の変化によって変化し得るか検証した。2012年から2020年の間に大村海岸で産卵された1698巣の産卵日を解析した結果、産卵のピークは年毎に異なり、最大で1か月以上のピークの年差が認められた。さらに、産卵開始時期と産卵時期の中央値は、産卵開始時期の小笠原諸島近海の海水温と有意な負の相関を示した。つまり、産卵開始時期の海水温が高い場合、産卵が早まることが明らかとなった。またウミガメ類は1回の産卵シーズンにおいて、数週間の産卵間隔で複数回産卵を行う。そこで、2013年から2019年の間に大村海岸で産卵した138個体の産卵間隔を解析した結果、産卵間隔は月毎及び年毎に異なるとともに、小笠原諸島近海の海水温と有意な負の相関を示した。つまり、産卵時期の海水温が高い場合、産卵間隔が短くなることが明らかとなった。以上の結果から、小笠原諸島のアオウミガメの産卵時期は、小笠原近海の海水温に応じて変化し得ることが示された。調査浜である大村海岸の砂中温度は、産卵開始時期である5月から産卵終了時期である8月まで上昇し続ける。したがって、海水温に応じて産卵時期が変化することにより、胚の経験温度を変化させることで、小笠原諸島のアオウミガメは地球温暖化に適応できる可能性が示唆された。