| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-053 (Poster presentation)
年縞のある組織(例えば耳石など)を用いた行動履歴の再構築は広く行われているが、近年は脊椎骨などの従来使われてこなかった組織も併用し、多元素の同位体比とその空間的分布とを組み合わせることで、行動履歴の復元精度が向上している。魚類の脊椎骨コラーゲンでも、個体の成長に沿った履歴情報が保存されることが分かっている。ヒラメ(Paralichthys olivaceus)は東北太平洋岸において重要な水産資源であり、その個体群動態の解明は、適切な資源管理を実施する上で重要である。本研究では、東北太平洋沿岸の5県(青森、岩手、宮城、福島、茨城;南北方向で概ね500km程度)で採集されたヒラメ稚魚(全長100mm以下、当歳)について、筋肉および脊椎骨コラーゲンの炭素・窒素安定同位体比分析を行い、県レベルで生育場所を特定できるかどうかを調べた。炭素および窒素の安定同位体比はいずれも、筋肉と脊椎骨コラーゲンの間で強い相関を示した。また、炭素・窒素の同位体比を用いた判別分析では、試料数が少ない岩手を除く4つの県で採集した稚魚は、明確に判別することができた。これらの結果は、「100mm以下の稚魚の移動範囲は狭く、100mmクラスの個体でも最大70km程度の移動しか認められない」という既往の標識放流の結果とも一致するものであった。青森県の稚魚は他県に比べて低い同位体比を示したが、これは津軽暖流の影響を受けていると考えられた。これらの成果は今後、加入量の変動予測や種苗放流事業の効果評価などに応用できると考えられる。また、本成果をヒラメ成魚の脊椎骨コラーゲンに応用することで、稚魚期以降の成長に伴う個体単位での移動履歴も得ることができると考えられる。本成果は2020年にFisheries Science誌に発表した。https://doi.org/10.1007/s12562-020-01436-y