| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-055  (Poster presentation)

エゾサンショウウオの孵化幼生は将来の餌に反応して成長速度と形を変える
Phenotypic plasticity of hatchlings of ezo-salamander in response to prey in the future

岡村翔, 谷村恵奈, *片山昇(小樽商科大学)
Kakeru OKAMURA, Keina TANIMURA, *Noboru KATAYAMA(Otaru Univ. Com.)

 表現型可塑性はあらゆる生物で見られる現象であり,これまでにも多くの事例が報告されてきた.しかし,従来の表現型可塑性に関する研究の多くは, 個体発生が進んだ生活史ステージに焦点を当てており,発生初期の可塑性にほとんど着目されてない.多くの動物では,発生初期(孵化直後)は脆弱なため,その時期をいかに生き抜き,備えるかは,その後の生物の生存と成長を大きく左右する.そのため,発生初期の可塑性を調べることは,生物の生存戦略の全貌を明らかにする上で重要な課題である.
 エゾサンショウウオは北海道に生息する両生類で,その生息地にはエゾアカガエルが産卵する場合がある.肉食性のエゾサンショウウオ幼生は,うまく成長できればエゾアカガエルのオタマジャクシを捕食するが,エゾアカガエルの方が先に孵化するため,孵化後しばらくは,エゾサンショウウオはオタマジャクシを捕食できない.もし孵化直後から幼生がオタマジャクシに応答して体や顎を大きくするなら,その可塑性を示さない個体よりも,将来の食う-食われる関係で有利となるだろう.
 本研究の目的は,オタマジャクシに応じたエゾサンショウウオの孵化幼生の表現型可塑性の実証と,その可塑性を誘導するシグナルの特定である.そのために,3つの飼育実験を行った.まず,孵化幼生を単独, あるいはオタマジャクシと飼育し,幼生の成長と形態形質の大きさを比較した.その結果,孵化幼生はオタマジャクシの存在下で大きく成長し,顎を発達させていた.そこで次に,この可塑性を誘導するシグナルを特定するため,オタマジャクシからの化学シグナル(オタマジャクシが水中に放出する化学物質)と,視覚シグナル(透明なガラス容器に入れたオタマジャクシ)を独立に操作する実験を実施した.これらの結果をもとに,「将来に餌となりうるオタマジャクシに応答したエゾサンショウウオの孵化幼生の表現型可塑性の意義」について考察した.


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