| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-059 (Poster presentation)
ヒト(Homo sapiens)の生活史の特徴として、離乳後も独立した採食者とならず他個体から与えられる食物に依存するチャイルド期の存在が想定されてきた。一方で、集団差はあるものの、狩猟採集民の子は離乳後早い段階から、オトナから分配される食物以外にも、子だけで食物を獲得・消費していることが近年指摘されている。本研究は、ヒトの進化過程において、オトナから与えられる食物以外での子自身の食物獲得がどの程度重要だったかについて洞察を得る目的で、野生下のチンパンジー(Pan troglodytes)の子が、間接的な食物分配と考えられる母親との同時採食以外の場面で採食をする行動を詳細に分析した。調査対象は、マハレ山塊国立公園M集団の野生チンパンジーの子19個体である。対象個体の年齢は、母乳以外のものを食べ始める時期の0.5歳から、乳首接触の終了時期の6歳までとし、母乳への栄養的な依存度が大幅に減少すると考えられている3歳の前後で発達変化を分析した。その結果、野生チンパンジーの子は、母親との同時採食と比べて1回の採食バウト長は短いものの、母親と異なるタイミングで、オトナの食べない食物を含めてアベイラビリティの高い植物種を食べており、その傾向は3歳以降でより顕著になっていた。これらの結果は、野生チンパンジーの子が、母親と常に一緒に遊動しなければならないという社会的状況の中で、母親と異なるタイミングで採食をする(いわば「間食」をする)ことで、消化器官が未発達なためオトナの採食リズムに完全に合わせて食べることができないという問題を克服していることを示唆する。本研究結果は、野生チンパンジーの子が自身の置かれた状況に応じてオトナと異なる機会主義的な採食をしているという点で狩猟採集民の子と共通しており、ヒトとチンパンジーの進化過程において、子自身の採食が適応的な役割を担ってきた可能性を示唆する。