| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-069 (Poster presentation)
ヒトの利き手に代表される行動の左右性は、様々な分類群で報告があるにも関わらず、その成立機構の理解は進んでいない。本研究では、左右性が顕著な鱗食性シクリッドPerissodus microlepisにおける捕食行動の左右性の獲得様式について報告する。以前の研究(Takeuchi & Oda 2017)では、鱗食開始期に相当する生後4ヶ月の「幼魚」において、捕食行動の左右性(襲撃方向の偏り)が練習を通じて確立されると示した。では、学習する機会があれば、いつでも利きは確立されるのか?ふ化後に個別飼育する事で鱗食経験のない生後8ヶ月の「若魚」、生後12ヶ月の「成魚」を作成し、捕食行動実験を数日おきに5回繰り返し行い、幼魚と比較した。実験を経るごとに、幼魚は口部形態に対応する方向から襲うようになり、実験5回目では8割の個体で有意な偏りを示した。若魚でも襲撃方向は徐々に変化したが、有意な偏りを有した個体は半数に減り、成魚では1個体もいなかった。また、幼魚と若魚では経験に応じて捕食成功率が上昇するのに対し、成魚では変化が見られず、実験5回目では幼魚や若魚よりも有意に低かった。したがって、学習経験による左右性の獲得能力には敏感期があり、生後4ヶ月で一般に高いが、日齢とともに次第に失われ、少なくとも生後12ヶ月には完全になくなると考えられる。加えて、捕食成功に重要な胴の屈曲運動能力を分析した。幼魚では、胴屈曲の振幅と最大角速度は、初回から利き側襲撃の方が有意に大きかったが、若魚と成魚では、運動優位性は見られなかった。また、若魚でのみ、獲物への最大接近速度が、実験を繰り返すと有意に速くなっていた。以上より、運動能力の左右差を生得的にもつが、幼魚期の学習経験でその後も維持・拡張され、若魚においては接近速度を向上させて捕食成功に繋げている。しかし捕食経験が発達期にないと、襲撃方向の好みや運動能力といった生まれ持っての左右差は、それがもたらす利点とともに失われると示唆された。