| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-072  (Poster presentation)

野生ボルネオオランウータンにおけるオスの二型成熟と繁殖成功
Male bimaturism and reproductive success in wild Bornean orangutans

*田島知之(京都大学), 久世濃子(国立科学博物館), 金森朝子(京都大学), 蔦谷匠(総合研究大学院大学), Renata S. MENDONCA(Kyoto Univ.), 山崎彩夏(井の頭自然文化園), Titol P. MALIM(Sabah Wildlife Department), Henry BERNARD(Universiti Malaysia Sabah), Vijay S. KUMAR(Universiti Malaysia Sabah), 井上英治(東邦大学), 村山美穂(京都大学)
*Tomoyuki TAJIMA(Kyoto Univ.), Noko KUZE(NMNS), Tomoko KANAMORI(Kyoto Univ.), Takumi TSUTAYA(SOKENDAI), Renata S. MENDONCA(Kyoto Univ.), Saika YAMAZAKI(Inokashira Park Zoo), Titol P. MALIM(Sabah Wildlife Department), Henry BERNARD(Universiti Malaysia Sabah), Vijay S. KUMAR(Universiti Malaysia Sabah), Eiji INOUE(Toho Univ.), Miho MURAYAMA(Kyoto Univ.)

オランウータンは群れを作らず単独性の強い生活を営む。性成熟したオスの中には優位形態であるフランジオスと、劣位形態であるアンフランジオスの2つの形態が存在する。両形態のオスはともに生殖能力を持ち異なる繁殖戦術を取る。ボルネオオランウータンにおけるオスの繁殖成功についての先行研究は、攪乱を受けた二次林や、リハビリテーション施設周辺の半野生個体群で行われたのみである(Goossens et al., 2006b; Tajima et al., 2018)。本研究は初めて、攪乱の少ない一次林に生息する野生ボルネオオランウータンを対象として父子判定を行った。2005年から野生ボルネオオランウータンの長期調査を行ってきたマレーシア・サバ州・ダナムバレイ森林保護区の一斉開花・結実が起こる低地混交フタバガキ林のおよそ2平方㎞を調査地として、2011年から2019年に、7個体の母親が産んだ9個体の子と、9個体の父親候補オスを含む32個体について観察と糞の採取を行った。糞のDNAを用いてマイクロサテライト11領域について遺伝子型を決定した。9個体の子のうち、5個体の父親を決定できた。4個体の子の父親は2個体のフランジオスであり、残る1個体の子の父親はアンフランジオスであった。フランジオスの子が多い一方でアンフランジオスもわずかに子を残していた結果は、二次林や半野生個体群での先行研究と一致しており、植生による影響は小さいと考えられる。また、残りの4個体の子の父親はサンプルを採取したオスの中にいなかった。9個体の父親候補のうち繁殖成功を収めていたのは3個体であり、単独性の強いオランウータンでは優位なオスが繁殖成功を独占することは難しいだろう。先行研究ではアンフランジオスが代替繁殖戦術として生存率の低い初産子の父親になると示唆されたが、本研究では1個体の初産子の父親はフランジオスであったことから、優位形態であるフランジオスの間にも競争があり、代替繁殖戦術をとる個体が存在する可能性が示唆された。


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