| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-073 (Poster presentation)
息をこらえて潜水する動物は、採餌する深度になるべく長く滞在するため、距離あたりの移動コストが最も少なくなる最適遊泳速度で水面と採餌深度を行き来する。深海へ潜水する鯨類はとりわけ長い距離を泳がなければならないため、なおさら遊泳速度の選択は重い意味を持つ。バイオロギング手法を用いて、深海へ潜水する中・大型のハクジラ類の遊泳速度を比較した結果、ヒレナガゴンドウは他のハクジラ類と異なる潜水戦略を持っていることが分かった。
数式モデルから、最適遊泳速度は(基礎代謝/抗力)1/3 に比例し、体重の重い動物ほど増加することが予想されている。実際、野外の動物から得られたデータでも、水面と採餌深度を行き来する巡行速度は体重に従って増加することが示され、その主な範囲は1〜2 m s-1である。ヒレナガゴンドウの体重から予想される最適遊泳速度は約1.5 m s-1であったが、野外で記録された巡航速度はその約2倍の3 m s-1であった。一方、他の深く潜るハクジラ類の巡航速度は、数式モデルから予想される速度と同様かやや遅い速度であった。さらに、行動の時間配分を比較したところ、体重から予想される遊泳速度と同様の速度であったマッコウクジラは、全体の装着時間の平均82±25% (n=12個体)を採餌潜水に費やしていたが、ヒレナガゴンドウが採餌潜水に費やしていたのは平均16±15% (n=18個体)と少なく、残りの時間を水平移動や休息、社会行動に費やしていた。
なぜヒレナガゴンドウは速く泳ぐのか?最適遊泳速度より速く泳いでいたのか?仮に、最適遊泳速度で泳いでいたとすれば、前述した式から、他のハクジラ類よりも基礎代謝が高いか、抗力係数が低いからであると考えられる。遊泳データを解析し抗力係数を推定すると共に、飼育下の個体を用いて休止時の代謝速度や心拍数を測定し、他のハクジラ類と比較し、その潜水戦略を検討した。