| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-074 (Poster presentation)
新潟県佐渡島の大佐渡山地の稜線部の、山頂現象により生じた風衝草原において、植生調査と同時に風況の詳細を実地で観測した事例は少なく、稜線部における風の吹き方と風衝草原の成立の因果関係について充分な検討がなされているとは言えない。そこで、大佐渡にある新潟大学の演習林内の風衝地(標高約800m)を調査地として、気象観測、土壌・地形の調査、植生調査を行った。
調査地の気温は標高相応の落葉広葉樹林帯が形成される温度環境であった。風速は、2、3月のピーク時で最大風速約40m/sであった。また西高東低の気圧配置となった日の最大風速は30m/s前後の高い値を記録していた。3月よりも1、2月の方が冬型の気圧配置をとることが多かったため、1、2月の風速は3月よりも高い値を頻繁に記録していたと考えられ、日本の高山帯に近い強さになっていることが予測される。また、どの斜面も岩礫によって起伏に富んでおり、水分環境や土性は一定の傾向が見られず、様々であることが分かった。植生調査では草本45種、木本28種、シダ植物14種の合計87種が確認された。中には高山性植物のイブキジャコウソウや、本来低標高に分布するカワラナデシコなどがみられた。これらの植生は傾斜及び土壌水分量と最多風向の2つの環境軸によって、急傾斜の乾燥した立地で優先する草本類、緩傾斜で湿った立地で優先する草本類、中間的な性質を示す草本類、最多風向と正対する斜面を避けて分布する低木類の4グループに大きく分けられることが分かった。
以上から、この風衝地は、高山帯の風に近い強さの北西季節風が大きな要因となり、木本類が風と正対する斜面を避けて分布し、高山性の植物が生育できる環境にあることが示唆された。また、気温は標高相応のため、低標高に生育する種も分布できる環境にあり、結果として多様な草本を主とした植物群落が成立していることがわかった。