| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-077  (Poster presentation)

火山性強酸性土壌におけるヤマタヌキランの分布規定要因
The determinants of distribution manner of Carex angustisquama, an extremophyte in highly acidic soil in volcanic areas

*長澤耕樹(京都大学), 福島慶太郎(京都大学), 瀬戸口浩彰(京都大学), 勝山正則(京都府立大学), 阪口翔太(京都大学)
*Koki NAGASAWA(Kyoto Univ.), Keitaro FUKUSHIMA(Kyoto Univ.), Hiroaki SETOGUCHI(Kyoto Univ.), Masanori KATSUYAMA(Kyoto Prefecture Univ.), Shota SAKAGUCHI(Kyoto Univ.)

 火山地帯では噴火に伴う撹乱の影響から周囲と異なる特殊な植生が広がる.特に,噴気孔周辺の硫気孔原では,土壌が激しく酸性化されるため,強酸性土壌特有の低pHと高濃度のAl3+が植物の生育に大きな影響を与えることが指摘されてきた.しかし,どちらの要因が硫気孔原植物の分布を規定するかについては研究例に乏しい.そこで本研究では,硫気孔原の最前線に優占するヤマタヌキランを対象に,土壌分析と栽培実験から,本種の分布規定要因を明らかにすることを目的とした.
 青森県・恐山における地形測量と土壌分析の結果から,pHは硫気孔が集中する裸地で最も低く(pH = 1.5),そこから10mほど離れた周縁部に成立するヤマタヌキラン群落では2-3の値を示した.一方で,Al3+については裸地とヤマタヌキラン群落で有意な差はなく,両地点で比較的低い値を示した.一般化線形モデルを用いた解析からは,Al3+がヤマタヌキランの分布にほとんど影響を与えないのに対し,pHとヤマタヌキランの分布には有意な関係性が認められ,ヤマタヌキランが比較的pHの高い地点に生育することが示された.さらに,pHとAl3+がヤマタヌキランの生育に与える影響を評価するため,pHとAl3+濃度が異なる溶液を用いて栽培実験を行った.その結果,ヤマタヌキランでは現地における裸地の土壌pHに相当するpH < 2.0で生育が阻害された.姉妹種であるコタヌキランで同様の実験を行ったところ,pH < 3.0で生育が著しく阻害され,両種でpH耐性に顕著な差が見られた.それに対して,Al3+耐性については両種で差はなく,コタヌキランでも高いAl3+耐性が示された.以上の結果から,硫気孔原におけるヤマタヌキランの分布はAl3+ではなくpHによって規定されており,低pHが硫気孔原における強い環境ストレス要因であることが示唆された.また,ヤマタヌキランはAl3+耐性において前適応が存在する可能性が示唆された一方,低pHに対しては祖先種からの種分化の段階で新規に耐性を獲得したことが推察された.


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