| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-078 (Poster presentation)
光は植物の生育を左右する重要な環境要因である.強すぎる光の下では光阻害が生じ,また弱すぎる光の下では生長に十分な光合成が行えないため,多くの植物は特定の強さの光に適応して生育している.しかし中には,幅広い強さの光の下に生育する種も存在する.こうした種が明所にも暗所にも生育できる仕組みには,光合成特性(光合成速度や葉の構造,色素量等)の可塑的な変化が考えられる.その一方で,生育場所の光の強さが顕著に異なる集団間では,光の強さに応じた遺伝変異を伴う局所適応が起きていることも考えられるが,この仮説は十分に検証されていない.本研究では,ユキノシタ科ダイモンジソウの明所型(直射日光が当たる風衝草原に生育する集団由来)と暗所型(弱い光しか届かない林床に生育する集団由来)を用いて,光の強さに応じた局所適応の検証を試みた.秋田県において近接して自生する明暗2集団の①野外個体および②温室(強光と弱光の2条件)で栽培した個体の光合成特性の測定を行った.さらに③中立マーカーを用いた集団間の遺伝的分化の推定を行った.その結果,①野外の明所型・暗所型個体は各々が生育する光の強さに応じた光合成特性を示した.②栽培個体の光合成特性は,両生態型とも栽培光条件によって変化したが,強光下での光合成速度は明所型の方が暗所型よりも有意に高かった.葉の構造と色素量の多くも栽培光条件によって変化したが,とりわけ柵状組織と細胞間隙の割合は生態型に依存して変化した.また,③集団遺伝解析から両集団の遺伝的分化は非常に小さいことが示された.以上より,ダイモンジソウの明所型と暗所型では,個体の可塑性が光の強さに応じた光合成特性の変化に寄与することがわかった.しかし同時に,遺伝変異に基づいた葉の構造の分化が生じていることから,急速な適応進化が起きている可能性も示唆された.