| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-080 (Poster presentation)
奈良公園は,歴史的にシカの生息密度が高いことが知られ,シカの採食が選択圧となって矮化したと考えられる草本植物が複数の分類群で生じている.これまでの我々の解析により,奈良公園のオオバコは,一般的なオオバコと比較して顕著に矮化した遺伝形質を示すほか,葉柄が水平面(地面)となす角度が小さく葉が地面に平伏することが分かっている.奈良公園において,このオオバコの平伏葉柄はシカ食害の回避に有効であるほか,他の植物がシカにより除去され光獲得競争から解放されたことで選択により分化・維持されてきたと考えられる.
またモデル植物であるシロイヌナズナにおいて,根生葉の葉柄角度は,光・重力・植物ホルモンなど様々な環境刺激に応答して変化するだけでなく,産地によって角度や環境応答性に違いがあることが知られるが,自生地での角度分化に関わる遺伝的制御には未解明の点が多い. 本研究では奈良公園の矮化型と一般型オオバコの葉柄角度の違いが,その環境応答性の違いによる可能性があると考え,光と重力への応答性について解析を行った.
その結果,まず奈良公園の矮化型と一般型オオバコは,日陰環境の光である遠赤色光照射に対して葉柄は水平面との角度を大きくして葉身を高く持ち上げる典型的な逃陰応答を示したことから,遠赤色光への応答に大きな相違はないと考えられた.次に重力応答の相違を明らかにするため,両タイプの植物体を白色光下で水平方向に横たえると(90°反転),いずれも葉柄と水平面がなす角度は反転前よりは小さいが同程度まで回復し,さらに反転前の両タイプ間の角度差が維持された.このことから奈良公園の矮化型と一般型オオバコは共に重力に応答して葉柄の角度を変化させるが,最終的な角度決定に関わる機構に相違がある可能性が考えられた.以上の結果および先行研究の知見を踏まえ,オオバコの葉柄角度決定の仕組みについて考察する.