| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-081 (Poster presentation)
生態的種分化では,異なる環境条件への適応に関わる形質が同時に生殖隔離を生じさせる.生態的種分化の初期段階では生態型間で隔離が生じると考えられるため,生態的隔離に関する遺伝子を特定することが種分化初期における進化動態の理解につながる.本研究では,北海道内の異なる土壌にみられるアキノキリンソウの土壌生態型(蛇紋岩型と一般型)に着目した.2型はそれぞれ蛇紋岩土壌と一般土壌に適応しており,結果として複数の生活史段階で隔離が生じている(交配前隔離ほか,それ以外の生態的隔離も合わせると全体でRI = 0.99).このように複数の形質に基づいて隔離が生じる場合,隔離遺伝子の数や連鎖関係が選択効率に影響する.そのため本研究では全ゲノム分析によって候補遺伝子を網羅的に調査することとした.道内2地点における生態型ペアを比較し,土壌型に関連して顕著な分化を示すゲノム領域を抽出した結果,複数のイオン輸送体(例:K, Ca, Mg, Mn, NO3の輸送体)遺伝子およびリン脂質代謝経路に含まれる酵素遺伝子,開花経路における主要遺伝子が検出された.これらの遺伝子はアキノキリンソウの9つの染色体上で1-3個ずつに分かれて分布していた.本地域の蛇紋岩土壌ではマクロ栄養元素に乏しい一方でMgや重金属が過剰に含まれており,遺伝子機能との対応性を考慮するとこれらの遺伝子が土壌適応に関与している可能性が考えられた.そこで分析対象を他地域の12ペアに拡張して候補遺伝子群をリシークエンスし,地理的に離れた集団でも同様に候補変異が選択されているか検証した.その結果,遺伝子によって程度の違いはあったものの,生態型間でアレル頻度が共通して分化する傾向が確認された.また候補変異の空間分布は中立遺伝子における地理的な構造とは一致しなかった.以上から,本種の蛇紋岩地帯への侵入は平行的に生じたが,そのときに選択された遺伝子群には相当の共通性があることが示唆された.