| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-082  (Poster presentation)

蛇紋岩土壌と湿地におけるサワシロギクの生態型間の遺伝子流動
Gene flow between serpentine and wetland edaphic ecotypes in Aster rugulosus

*西野貴子(大阪府立大学), 林雅貴(大阪府立大学), 阪口翔太(京都大学), 福島慶太郎(京都大学), 石川直子(東京大学), 伊藤元己(東京大学)
*Takako NISHINO(Osaka Pref. Univ.), Masaki HAYASHI(Osaka Pref. Univ.), Shota SAKAGUCHI(Kyoto Univ.), Keitaro FUKUSHIMA(Kyoto Univ.), Naoko ISHIKAWA(Univ. of Tokyo), Motomi ITO(Univ. of Tokyo)

貧栄養で有害な重金属を含む蛇紋岩土壌は、多くの植物の生育には不適だが、その反面、局所適応した植物には競争種が少ない利点もある。 サワシロギクAster rugulosus Maxim. はキク科の多年草で、全国の湿地に生育する集団(湿地型)と、東海地方の蛇紋岩地帯に生育する集団(蛇紋岩型)には生態的な分化があり、湿地型では蛇紋岩耐性は低く、蛇紋岩型では集団ごとに耐性が異なる。また、繁殖様式も異なり、湿地型は地下茎による栄養繁殖を行うが、蛇紋岩型Aでは地下茎を出さない。一方、蛇紋岩型BやCでは湿地型より少ないが数本の地下茎をもつ。 こうした集団ごとの特性は、集団間の遺伝子流動が小さい場合には保持され、また遺伝子流動が大きい場合でも、集団ごとに異なる環境の選択圧によって、その特性が保たれ得る。
そこで本研究では、サワシロギクの集団間における遺伝子流動を推定し、集団間分化への作用を考察した。 全国の湿地型22集団に蛇紋岩型3集団を加え、全1,283個体を5種のマーカーによるSSR解析を行った。その結果、蛇紋岩型集団とそれに近接する湿地型集団との間のペアワイズFSTは0.272-0.318で、また遺伝距離も0.807-0.999と大きく、生態型間で遺伝的分化が進行していると考えられる。同様の結果は、STRUCTURE解析からも示唆された。また、遺伝子流動量は蛇紋岩型AからBへは0.497、逆方向は0.372、同じように蛇紋岩型AC間は、0.188と0.194で遺伝的交流は小さかった。一方、蛇紋岩型Cから蛇紋岩型Bへの遺伝子流動量は1で十分な遺伝子流動が起きているにもかかわらず、逆方向では0.625で不均等な流動量を示した。この不均等な遺伝子流動量は、蛇紋岩集団BからCに遺伝子流動が起きても耐性が不十分で、遺伝子流動量の見かけの減少が起きていることが考えられる。


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