| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-084  (Poster presentation)

MIG-seqによるウツボグサの集団遺伝学的解析
Population genetic analysis of Prunella vulgaris using MIG-seq method

*中瀬悠太(信州大学), 江川信(信州大学), 田路翼(信州大学), 廣田峻(東北大学), 陶山佳久(東北大学), 市野隆雄(信州大学)
*Yuta NAKASE(Shinshu Univ.), Shin EGAWA(Shinshu Univ.), Tsubasa TOUJI(Shinshu Univ.), Shun HIROTA(Tohoku univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku univ.), Takao ITINO(Shinshu Univ.)

ウツボグサPrunella vulgaris は低標高から高標高にわたって幅広く分布する多年生草本である。マルハナバチ属などのハナバチ類やチョウ類が花粉媒介を行う。これまでの研究で、長野県では、地点ごとにウツボグサに訪花する昆虫の種構成が異なり、訪花者の違いに応じて地点間のウツボグサの花サイズに変異がみられることが分かっていた。この地点間の花サイズの変異は場所ごとの送粉者との相互作用の中で獲得され、遺伝的な構造とも関係するものであると考えられる。しかし我々の先行研究による分子系統解析(ITS領域,約600bp)では、ウツボグサの種内に遺伝構造を見出すことができなかった。そこで本研究では、長野県及び周辺地域のウツボグサを対象として、より高解像な手法で遺伝構造を検出すべく、次世代シーケンサーを用いたMIG-seq法によりゲノムワイドにSNP情報を取得し、それを元に集団遺伝解析を行った。その結果、従来の分子マーカーを用いた系統解析では検出できなかった遺伝構造が検出された。長野県内のウツボグサの単系統性が支持され、さらに各地点間の遺伝的な関係も明らかになった。これらの結果から、長野県内で見られるウツボグサは他地域のものから遺伝的に区別できる集団に属すること、その中でさらに地点ごとに花サイズの変異があり、それらにも遺伝的な構造が背景にある可能性が高いことが示唆された。今後は長野県周辺地域のウツボグサの花形態や訪花者についての情報も追加して合わせて解析していくことで花サイズの多様化過程の推定もできるだろう。


日本生態学会