| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-091  (Poster presentation)

オオハンゲ (サトイモ科) の繁殖様式
Reproductive system of Pinellia tripartita (Araceae)

尾上元哉, *松本哲也, 廣部宗, 宮﨑祐子(岡山大学)
Motoya ONOUE, *Tetsuya MATSUMOTO, Muneto HIROBE, Yuko MIYAZAKI(Okayama Univ.)

固着性生物である植物は,花粉と種子の移動を動物や風,水などに依存している.幾つかの植物分類群には,典型的な送粉・種子散布様式の組み合わせが存在する.例えばサトイモ科では,目立つ花序や発熱を伴った花香の放出で送粉者を誘引するハエ・甲虫媒と,赤熟した液果を報酬とした鳥散布が広く知られる.一方,サトイモ科ハンゲ属の多年生草本オオハンゲは,両性花序を包む苞が小型で全体が緑色であり,送粉者に依存せず自動自家受粉を行うと推測されている.また,オオハンゲの果実は成熟すると白味を帯び,同様の果実を持つ一部のサトイモ科ではアリによって果実が持ち去られることが知られている.そこで本研究では,一般的なサトイモ科の特性から逸脱した花序と果実を持つオオハンゲの繁殖様式を解明するため,岡山大学薬用植物園と自生地2カ所において,開花フェノロジー,自殖性の有無,有効な送粉者,アリによる果実散布の検証を行った.
オオハンゲの花序は平均10.6日開花し,雌期 (2.3日) より雄期 (8.3日) が長い傾向があった.袋掛けした花序 (平均16%) では,無処理の花序 (79%) より結実率が著しく低下した.各花序には一日に平均1.1頭の昆虫が訪花した.いずれの調査地でも訪花昆虫の80%以上をタマバエ科昆虫が占め,体表には平均101粒の花粉が付着していた.アリによる30分間の持ち去り実験では,スミレ (21%) やオッタチカタバミの種子 (42%) に比べてオオハンゲ果実の持ち去り率 (79%) は極めて高かった.
以上の結果から,オオハンゲの有性繁殖はタマバエ科昆虫による花粉媒介に依存し,果実の分散にはアリが寄与することが示唆された.オオハンゲは典型的なサトイモ科とは大きく異なる繁殖器官を持つものの,小型の昆虫に適応した送粉・果実散布様式にシフトすることで高い繁殖成功を実現している可能性が考えられた.


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