| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-096 (Poster presentation)
異型花柱性は、被子植物に見られる性的多型で、種内にメシベの長さが異なる複数のタイプの両性花が存在する。メシベの長さに二型があるものを二型花柱性、三型があるものを三型花柱性という。花のタイプは株ごとに遺伝的に決まり、一般に異なるタイプ間で受粉したときにのみ結実する。そのため、繁殖は花に適合した送粉者に強く依存している。異型花柱性は、自殖を防ぎ、他殖を促進するために進化したと考えられている。
日本における異型花柱性の研究としては、本州や北海道のサクラソウ属植物を材料とした進化生物学や保全生態学的な研究がよく知られている。一方、近年では南西諸島や小笠原諸島といった亜熱帯島嶼域において、異型花柱性植物の調査が進み、その生態学的な研究も増えている。本発表では、日本の中でも特に、亜熱帯島嶼域における近年の異型花柱性に関する研究の展開を紹介する。さらに、日本の異型花柱性種の地理的分布と生活型・繁殖型・散布型の関係について考察する。
小笠原諸島では、アカネ科ボチョウジ属から2種の二型花柱性が報告され、今後新たに他の分類群で異型花柱性が見つかる可能性は低い。一方の南西諸島では、アカネ科アリドオシ属、サツマイナモリ属、ボチョウジ属、ハテルマギリ属、ボロボロノキ科ボロボロノキ属、ミソハギ科ミズガンピ属、タデ科イヌタデ属から二型花柱性が報告されている。さらに、二型花柱性の可能性が高いものの調査されていない分類群もわずかに残されている。また、アカネ科のコンロンカやボチョウジでは、二型花柱性から雌雄異株に進化した可能性が指摘されている。
異型花柱性植物の形質を属レベルで比較すると、日本列島温帯域では、草本・蒴果(重力・水散布型)の割合が高く、南方島嶼域では木本・液果(鳥周食散布型)の割合が高かった。 これは世界の温帯と熱帯における異型花柱性の傾向と合致している。