| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨
ESJ68 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-098  (Poster presentation)

長距離種子散布の方向性:標高・緯度・経度方向の種子散布の役割と駆動因を考える
Directionality of long-distance seed dispersal: considering the role of altitudinal, latitudinal and longitudinal seed dispersal under climate change

*直江将司(森林総合研究所)
*Shoji NAOE(FFPRI)

長距離種子散布(LDD)は、気候変動下での植物の避難、また分布拡大にとって不可欠なプロセスである。しかしながら、LDDの方向性に焦点を当てた研究はほとんどない。L D Dの方向性には、標高、緯度、経度の3つが考えられる。動物や風などの種子散布の媒介者の特性を考慮すると、LDDには方向性があると予想され、またその方向性は植物の移動の成功や失敗に決定的に影響するかもしれない。本発表では、長距離散布に方向性をもたらしうる潜在的な要因を主要な種子散布タイプで検討する。

  標高方向での種子散布では、標高による餌生物のフェノロジーの違いによって引き起こされる動物の動きが、低標高に偏った種子散布を引き起こすだろう。また颪(おろし)や川の流れも、低標高への種子散布を引き起こすだろう。緯度方向の種子散布では、鳥の渡りが低緯度に偏った種子散布を引き起こすと予想される。地方風、川の流れおよび海流は場所によって高緯度・低緯度いずれの方向の種子散布も引き起こすと予想される。経度方向の種子散布では、低緯度の貿易風と高緯度の極東風が西への種子散布、中緯度の偏西風が東への種子散布を引き起こすだろう。

  重要なことに、潜在的な要因の多くは、より温暖な低標高もしくは低緯度の場所、つまり植物にとって不適になりつつある場所への種子散布を引き起こすと予想された。今後、各種子散布様式におけるLDDの方向性が、温暖化条件下での植物の移動に寄与するかどうかを実際に検証していく必要がある。LDDを容易に評価しうる種子のアイソスケープは、この検証のための強力なツールになるだろう。


日本生態学会