| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-099 (Poster presentation)
同所的に生育する近縁種間に不適応な雑種が形成されるとき,同所的集団では交雑が起こりにくい形質が分化し形質置換が生じると予想される。イヌヤマハッカ(シソ科ヤマハッカ属,以下イヌヤマ)と,同属近縁種クロバナヒキオコシ(以下クロバナ)またはセキヤノアキチョウジ(以下セキヤ)は同所的に生育することが観察されている。長野県奥志賀地域と東京都奥多摩地域にて,単独集団および同所的集団にて,開花フェノロジー,送粉者相と訪花頻度,異種交配・混合花粉交配を行い,形質置換を検出した。(1)イヌヤマとクロバナ:イヌヤマを胚珠親としたとき,クロバナとの雑種は形成されにくく,単独・同所的集団いずれも同種交配が優先していた。クロバナを胚珠親としたとき,単独集団では雑種が形成され,同所的集団では雑種は形成されにくく,同種交配を優先していた。よって,クロバナでは自種花粉選好性において形質置換が生じていると考えられる。同所的集団では,2種間の開花フェノロジーは重なっており,送粉者を共有していた。(2)イヌヤマとセキヤ:イヌヤマを胚珠親としたとき,(1)と同様の傾向だった。セキヤを胚珠親としたとき,送粉者を共有している同所的集団では自種花粉選好性がみられた。以上をまとめると,クロバナとセキヤにおいては,イヌヤマと送粉者を共有している同所的集団において,自種花粉選好性の形質置換が生じていた。イヌヤマは開花フェノロジーや送粉者による交配前隔離に形質置換が生じていると考えられる。自種花粉選好性については,受粉後の花粉管伸長を明らかにする必要がある。