| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-106 (Poster presentation)
温帯に分布する樹木などの多年生植物は、秋から冬にかけての短日条件と気温の低下に応答して低温順化し、その過程で耐凍性を増加させる。植物の耐凍性には可溶性糖が貢献していることが知られており、気温の低下や耐凍性の増加にともなって多様な糖が植物体に蓄積される。本研究では、日本固有の針葉樹アスナロ属を使用し、秋から冬にかけての耐凍性と糖類の増加過程について調べた。材料は、林木育種センター構内(茨城県日立市)に植栽された磐梯熱海(福島県郡山市熱海町)産および久々野(岐阜県高山市久々野町)産アスナロ属各4個体の針葉である。サンプリングは2018年9月20日、10月18日、11月21日、2019年1月24日の4回行った。耐凍性試験では電解質漏出法によって50%の生存率を示す温度(LT50)を算出し、耐凍性の指標とした。LT50が低いほど、耐凍性が高いことを意味する。糖分析ではHPLCによって、アラビノース、フルクトース、グルコース、スクロース、ラフィノースの5種類の含有量を測定した。結果、全ての糖で、9月から1月にかけて含有量が増加した。LT50と糖含有量には負の相関がみられたことから、耐凍性の上昇にともなって糖の含有量も増加することが確認された。アラビノースとスクロースの増加過程は個体差が大きく、相関係数は全体で−0.58および−0.77であった。フルクトース、グルコース、ラフィノースの相関係数はそれぞれ−0.88、−0.93、−0.94と非常に高く、11月から1月にかけて急激に含有量が増加していた。フルクトース、グルコース、ラフィノースの3種類は針葉樹の耐凍性上昇に寄与することが知られており、アスナロ属でもこれらの糖が重要な役割を担っていることが示唆された。