| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-107 (Poster presentation)
ポリアミン類(PAs)はすべての生物に存在する低分子化合物で、その代表的な3種(プトレシン、スペルミジン、スペルミン)は、オルニチンやアルギニンからの脱炭酸により合成され、細胞内に高濃度で含まれている。In vitroの検証で、PAsは溶液中にCO2を補足・濃縮し、ルビスコによるCO2固定を促進することが知られている(Yasumoto et al. 2018)が、このメカニズムが生体内においてどのような役割を果たすのか、わかっていない。これまでに演者らはPAs溶液を付与した葉は、人為的に葉内空間間隙を低CO2にすると、葉肉コンダクタンス(gm)が上昇し、光合成に貢献することを示唆してきた(2017生態学会)。強い乾燥下で植物が気孔を閉じると、葉内空間間隙が低CO2になるため、ポリアミンによってgmが上昇すると予想される。そこで、厳しい乾燥がかかる小笠原諸島父島において乾性低木林構成樹種である、テリハハマボウとシマシャリンバイを対象に、気孔コンダクタンス(gs)と葉肉コンダクタンス(gm)の日中変化を、異なる乾燥条件で測定した。さらに、乾燥条件下でのgmの上昇にPAsが寄与しているか、PAs生合成阻害剤(DFMO)を葉にスプレー塗布し、検証を行った。
結果テリハハマボウでは、一番湿潤な条件下で、gsあたりのgm(gm-gs 関係の傾き)が0.31であったが、もっとも乾燥した条件下では、0.94であり、土壌が乾燥するに連れて、gm-gs 関係の傾きが上昇した。さらに、この上昇はDFMOによって抑制された。一方、シマシャリンバイは、土壌の乾燥に伴ったgm-gs 関係の傾きの上昇がテリハハハマボウに比べて低く(約83%減)、DFMO付与の効果も検出されなかった。テリハハマボウはシマシャリンバイと比較し、日最大気孔コンダクタンスが高く、水を損失しやすいが、CO2固定酵素であるルビスコのCO2親和性は低い(2020 生態学会)。しかし、乾燥時に気孔が閉鎖するとポリアミンによってgmを上昇させ、光合成を維持し、乾燥へ適応している可能性が示唆された。