| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-108 (Poster presentation)
植物には、根からケイ素をほとんど吸収しない種が存在する一方で、ケイ素を能動的に吸収し、葉のケイ素濃度が乾燥重量の10%以上になる種も存在する。ケイ素は土壌中に豊富に存在し、葉の力学的支持に用いることができるため、植物にとっては炭素よりも安価な補強材であると考えられる。一般に葉の寿命と力学的強度には正の相関があるが、意外なことに、葉のケイ素濃度は葉寿命の短い種で高い。なぜ葉寿命の長い種では葉のケイ素濃度が低いのだろうか?ケイ素を含む葉は、硬い一方で脆くもなりうるため、長寿命の葉にとってケイ素は適した材料ではない可能性がある。本研究では葉のケイ素濃度の異なる種を比較し、「ケイ素を多く含む葉は硬いが脆い」という仮説を検証した。また、ケイ素は細胞壁構成成分(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)と相補的に葉を支えるため、ケイ素が相対的にどれだけ力学支持に寄与しているかも検証した。
2019年9月に京都市内の落葉広葉樹33種の葉を採取し、二次脈を避けて長方形の葉片を切り出して、材料試験機により引張試験を行った。引張試験では葉片がちぎれるまで、ひずみと荷重を連続的に記録し、ヤング率(材料としての固さ)、最大応力(強度)、最大ひずみ(柔軟性)、靭性(破壊に必要な総エネルギー)などの力学特性を算出した。また測定葉のケイ素および細胞壁構成成分を定量し、力学特性との関係を解析した。
葉のヤング率はケイ素濃度と正に相関し、最大ひずみはケイ素濃度と負に相関した。葉の組織密度の違いを考慮した重回帰分析でも、ヤング率と最大ひずみは、それぞれケイ素濃度と有意に関係した。また、最大応力はケイ素濃度と相関しなかったが、乾燥重量当たりの破壊に必要な総エネルギーはケイ素濃度と負に相関した。つまり、ケイ素濃度が高い葉は硬いが、柔軟性が低く脆いことが示唆された。発表では細胞壁構成成分との関係も併せて考察する予定である。