| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第68回全国大会 (2021年3月、岡山) 講演要旨 ESJ68 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-116 (Poster presentation)
植物のストレス応答は生存戦略として重要な要素の一つである。光は光合成に必要だが、光合成で使い切れない過剰エネルギーは活性酸素を生み出し、植物にとって害となり得る(光阻害)。植物の葉においてキサントフィル類は、弱光条件ではビオラキサンチンとして蓄積し、光エネルギーが過剰となる条件ではゼアキサンチンに変換される(脱エポキシ化)。その結果、光合成色素クロロフィルが吸収した過剰エネルギーが熱として放散(熱放散)され、これは光阻害回避の主要な役割を果たしていると考えられている。
本研究では、小笠原諸島父島において強光・高温にさらされる夏季に、在来種および外来種を含む草本・木本23種類の植物に関して、異なる光強度下(夜明け前・曇り・晴れ)での葉の色素組成と機能形質の分析を行った。光ストレス応答に関しては、キサントフィルのクロロフィルあたりの量と脱エポキシ化度合(DPS)を指標に評価した。DPS値が高いほどキサントフィルを介した光エネルギーの熱放散が起こっていることを意味する。これにより、陸域生態系の保全にとって重要である海洋島における外来植物種の侵略を可能にする要因について考察した。
在来種は外来種と比較してキサントフィル総量が多く、また、直達光下と暗条件下でのDPSが高い傾向があった。これらの結果は、在来種が日中の強光条件に対して、積極的にキサントフィルを介した熱放散を行なうことで光阻害を回避していることを示唆する。一方で、外来種のDPSは直達光下でも暗条件下でも低い傾向があり、外来種では葉の形態などの熱放散とは異なる機能形質でストレス環境に適応している可能性が示唆された。以上の結果から、外来種は在来種とは異なる環境適応戦略で強光乾燥ストレスに晒される小笠原諸島の生態系への侵略に成功していることが推測された。